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prologue
prologue-前編-
『破滅の女神がもたらした災いの雨を前に、勇者は剣を置き、傘を掲げました。そして勇者はいいました。「ここを僕らの楽園にしよう」と』ー童話【破滅の女神と勇者】の一説
自分が見ている世界はとても広く見えて、実はとてもちっぽけなものだ。だって人間には目玉が二つしかないのだから。
実は隣の部屋の住人が犯罪者だ。実は自分のクラスメイトはロボットだ。実はこの国の王様はすでに死んでいる。実は隣の国はもう滅んでいる。実はこの世界はゲームである。…なんて、確認のしようがない。したいとも思わない。
自分が信じたいものだけ信じる、そんな無自覚の傲慢さを誰もが持っているものだ。そして誰もが、その傲慢さに足元をすくわれる。
これは、そんな役立たずの誰かの物語。

…波の音が聞こえる。
▼客船ー甲板
どこまでも広がる青い海、遥か遠くで輝く水平線。晴れ渡る空に流れる雲、ペリカンの鳴き声。波をかき分け進んでいく客船に揺られながら、私は甲板で景色を眺めていた。
美しい景色でもずっと見続ければ飽きてしまうもの。欠伸をしながら懐から1枚の手紙を取り出し、何度も読み返したそれをもう一度じっくり眺めた。

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