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Chapter3

Chapter3―少年少女だった日の思い出
(非)日常編

―――接続不良,再接続を試みます。

…アクセス不十分。現在、ネットワークの断絶により情報が錯誤中。

 

一部のデータの更新が可能。

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モノボウズ

「…それでも、旧データではありますが。旧いデータの中でも比較的

 新しいもの程度。…私にできるのはこの程度。申し訳ありません」

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モノボウズ

「楽園の存続のため、貴方様のため、私は、私達はここにいます。

 だからどうか泣かないでください」

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モノボウズ

「新しく入って来た情報に、いくつか気になることがあります。

 …いまだ見つからぬ『落とし主』のことを考えますと、

 次はこの情報を使って…――――」

 この島に来てどれくらいの日が経っただろう。もう何年もいるような、それでいて昨日やって来たばかりのような、鈍色の感覚がどろりと自分の中で濁流となっている。

 

 ただのバカンスだと思ってこの島にやってきた。才能を持つ自分を信じ、磨き、そして招かれたのだと。忙しい日々のちょっとしたご褒美のつもりだった。

 

 だというのに、急に変な紙切れを見せられ、殺し合いを強要され、実際に殺しが起き、裁判なんてままごとをして、それで人が処刑されて…現実味がまるでない。

 

 氷が浮かんだグラスを傾け、喉を潤しても気分がすっきりしないのはそのせいだ。

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​姫宮蝶子

「…やはり繋がりませんね…」

スマホに表示された圏外の文字を見て、何度目かの溜息をつく。来る途中の船の中では辛うじて繋がっていた電波も、この孤島では役に立たないらしい。

 

 昼下がりのカフェで昼食をとっていた面々は、各々のスマホを見てはやはり溜息をついた。

 一人でいることに危機感を覚えるのか、同じ感覚を持つ人間と寄り添いたいのか、以前よりも食事時に人が集まりやすい。

 

 ランチタイムの話し合いに実りはないが、それでも言葉にせずにはいられない不平不満を誰もが持っていた。

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君野大翔

鳴姫 む.png

螺河鳴姫

「大人数が暮らして行ける島だし、ネットワークの環境くらいりそうだけど…」

「いくら島の中に牧場や畑があるからって、完全に孤立しているとは

 考えられないし…連絡手段は他にないのかな?」

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物造白兎

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良田アリス

「この島じゃ作れねぇものだってあるです。輸送船とかねぇです?」

「前はあったみたいだけど、今は来てないみたいだよ。

 アリス達がこの島に来てからは、一回も船着き場は動いてないみたい」

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​姫宮蝶子

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芍薬ベラ

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​大賭清一

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御透ミシュカ

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栂木椎名

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沙梛百合籠

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大鳥外神

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アヴェル

「この島に来る前から、ずーっとネットの調子悪かったの!

​ 世界的なねっとわーくしょうがい?だってニュースでいってたの!」

「おかげで俺は商売あがったりだわ。たまーーーに回線に繋がっても、

 情報が古くて使いみちになんねぇし」

「どこかの国の実験で大爆発が起きたのが原因…ってニュースで見たわ」

「え、僕は大災害でいろんな国が被害を受けてるって見たけど」

「あたしはレジスタンスによる革命戦争だって見たよ」

「アタシは宇宙人が秘密裏に地球に侵入したって見たわね」

「…どれもこれもゴシップの域を超えませんね。

 情報規制でもかけられているのでしょうか」

「けど実際、この島に来るまでも結構大変でしたから…

 なにかしらの世界規模のトラブルは起こっていたのでしょう」

 そう言いながら、雨傘島にやってくる前のことを思い出す。

 招待状を受け取り、指定された場所へ行くと迎えが来たのだが…それに随分と時間が掛かったものだ。

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栂木椎名

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螺河鳴姫

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御透ミシュカ

「いくつか飛行機をまたいで、電車をまたいで、船をまたいで…長かった…」

「空港とかやけに身体検査をされたりしてたけど、今ってそんなに

 厳重なものなの?」

「元超高校級だからって、ちょっとやりすぎなくらい検査して調べて…

 って感じだったね」

 各地に散らばっていた才能達が、国から国へ、都市から都市へと渡る際に様々な検査を行っていた。

 やりすぎだとは思ったが、特別不遇な扱いでもなく、規則だと言われればそれまでだ。

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アヴェル

「アタシなんてすごく遠い国に行ってたから、指の数じゃ検査の回数が

 足りないわ…」

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物造白兎

「荷物もてってーてきに調べられたのです!プライバシーもくそもねぇです!」

 荷物と言う単語を聞いて、あの【紙切れ】を思い出す。

 

 何か読めない文字が書いてあるだけの小さな紙。それを見た瞬間に、モノボウズはコロシアイを強要し始めた。

 結局あの紙切れが何なのかは、いまだ手がかりが掴めていない。

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良田アリス

「…あの紙切れのせいで…4人も死んだんだよね……」

 ぽつりと漏れた言葉は、静かになっていた空間にはよく響いた。誰も考えないようにしていた死の現実を思い出させる、苦い記憶だ。

 あの紙切れがなければ、今頃皆で楽しく過ごせていたのだろうか。

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御透ミシュカ

「音切君はいても楽しくなかったと思う」

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大鳥外神

「そ、そういうことは思っても言わない方がいい…かな」

 …一部性格に難がある者がいることは事実だ。それでも、殺し殺されるような境遇に陥れられるほど、非道な人間がいたとも思えない。

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良田アリス

栂木椎名 え.png

栂木椎名

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螺河鳴姫

「落とし主がいつまでたっても見つからないのはさ、

 本当はいないんじゃない?」

「えー、でも落としたものがあるってことは、落とした人がいるって

 ことでしょ?」

「いたとして名乗りでないなら、あの紙って相当やばいものなんじゃ…」

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モノボウズ

「何度も申し上げている通り、あれは災いです。

 あんなものがこの場にあっては行けないのです」

 ばっと振り返れば、いつのまにか静かに机の上に佇むモノボウズが、済ました顔でお辞儀をしていた。

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君野大翔

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モノボウズ

「そんなに危ない物なら…いっそ全員力づくで取り押さえて、

 好きなだけ調べなよ。それくらいできるだろ?」

「そうしたいのは山々なのですが、災いによって皆様に被害が

 及ぶやもしれません。なので我々に出来るのは簡単な身体検査と、

 亡骸を漁るくらいなのです」

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​大賭清一

「いい加減さぁ、その災いってのが何なのか、教えてくれたって

 いーんじゃない?俺ら、被害者なわけよ?」

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モノボウズ

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栂木椎名

「申し訳ありませんが、お答えできません」

「理由も分からないのに命を奪い合ってる理不尽さに、なんとも

 思わないのかい?その賢い機械仕掛けの脳みそにはどんな回路が

 組み込まれているのだろうね」

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モノボウズ

「すべては平穏な生活のため、この島のため。

 貴方達の幸福を望んでいるからこそです」

 ひらりとした体と同じように、こちらの質問にもふわふわと要領の得ない答えばかり返してくる。

 そういうプログラムなのか、生き物でない以上拷問にかけたとて意味はない。

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良田アリス

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君野大翔

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​姫宮蝶子

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物造白兎

「超高校級のプログラマーとかロボット工学者とかがいたらなぁ…」

「どっちもこの前死んじゃったから、どのみち無理だね」

「ああ、災害だのテロだの宇宙人侵略だのと噂が出てる某国での

 集団死の犠牲者でしたね」

「天才はハクメイなのです…」

 自分より遠い死は、こんなにも気軽に話せるのに。今まで死など朝のニュースで眺めるくらいのものだったのに。今は自分たちの命がかかっていると言われ続けて、どんどんと感覚がマヒしていく気分だ。

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モノボウズ

「それはさておき、本日は皆さまにこちらをお持ちしました」

 そう言いながら各自のテーブルへ配られたのは、1つの封筒だった。

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モノボウズ

「我々は招くべき方々を厳選し、皆様に招待状を出しました。

 しかしそのすべてを理解しきっていたわけではありません。

 なので、情報を攫い直し、新たに判明した点もいくつかございました」

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モノボウズ

「その中には、皆さまの表向きではない情報…

 平たく言えば秘密が記されています」

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良田アリス

「アリスたちの秘密…??」

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君野大翔

「そんなのどこで仕入れたっていうのさ…」

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モノボウズ

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モノボウズ

「落とし主を見つける手掛かりになるかと思い、副産物として手に入れた

 情報です。しかし中には、知られたくない情報の方もいるでしょう」

「落とし主が見つからなければ、こちらの情報を皆様に向けて

 開示いたします」

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芍薬ベラ

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栂木椎名

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御透ミシュカ

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栂木椎名

「…つまり、さっさと見つけないと個人の秘密を全体に暴露するって

 ことかな?」

「うぅ......本当はバレたくないことはあるけど......人の命より安いものなんて

 そんなにないなの......どうしようなの......(しょんぼり)」

「……秘密を晒すだなんて、悍ましいことをよくもまぁ思いつくものだ。

 はぁ、酷いことが書かれていないといいけれど……」

「そんなこといって、はったりじゃないの…?音切さんの性格だって

 全然分かってなかったみたいだし、貴方達の情報なんて信じないんだから!」

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モノボウズ

「それでは…1つ、今ここで公開しましょうか」

 そう言うや否や、モノボウズは封筒を一つ取り上げる。目の前の封筒が急になくなって狼狽えたのは、御透ミシュカだった。

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御透ミシュカ

「え、え…ちょ、ちょっと、やだ、秘密なんてないよ!

 何が書いてあるのよ、ねぇっ…!」

 手を伸ばすミシュカを揶揄う様に、ふわりと宙に浮いたモノボウズは封筒から紙を取り出す。

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モノボウズ

「御透ミシュカ…本名【江見菜みいな(えみな)】は、人の彼氏に異常な

 粘着を見せ、ネットストーカーとして広く名が知られています。

 愛欲が深く、重く、偽名を使って作品を出すことでなんとか活動している

 ようですが…恐ろしい方ですね」

  無機質なアナウンスは、昼下がりのラジオのように穏やかな口調だった。ふらりと体勢を崩したミシュカがコップを落とし、それが割れる音が耳に届くのがとても遅く感じる。

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江見菜みいな

「な…んで、なんでぇ…なんで知ってるの…?

 今までずっと、隠してきたのに……!」

 目を見開いて大粒の涙をこぼしガタガタと震えるミシュカの…みいなの姿を見れば、真実性を疑う者はいないだろう。

 へたりと床に座り込み、割れたガラスで足を切っても痛みに気づかないほどに狼狽した姿を晒していた。

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江見菜みいな

「し、知らなかったんだもん!彼女がいるなんて、知らなくて…ただ好きって

 伝えたかっただけなのに!!なのに、なのに、なんで全部あたしが悪いって

 皆言うの…っ!!あたしは、好きになっただけなのにぃ…っひく…

 うわああああああん!!!!!」

 ついに大声をあげて泣き始め、床にうずくまる。喉から絞り出す悲鳴に近い嗚咽が、爆発した感情に振り回された金切り声と混ざり耳を塞ぎたくなる。いつも彼女と気軽に話す者ですら声をかけるのを躊躇った。

らぶり『……………。』 (口元を手で覆い心配そうに眺め)

おとり『うっわ、きも。女のストーカーとか生きてる価値ねぇわ〜』

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大鳥外神

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良田アリス

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君野大翔

「ひ、人が必死に秘密にしてることをそんな簡単に……!」

「わ………ぁ…………」

「ミシュカちゃん…」

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江見菜みいな

「なんでこんな、何回も何回も辛い思いしなきゃいけないの…っ!!

 う、うぅ…っ」

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君野大翔

「御透さんっ…!とりあえず落ち着いて、ねっ…?ほら、あっち行こう」

 背中を撫でながら、半分持ち上げるように立たせた君野は店の外を指さす。殆ど引きずるような形でなんとか外へ向かう際に、大翔がモノボウズへ向けた目線は酷く冷たかった。

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君野大翔

「人の秘密をこんな風に晒すなんて、最低だよ。

 あんたが言う楽園や俺たちの幸福なんて、何一つ信じられない」

 そう吐き捨てる大翔の声など聞こえないように、モノボウズは淡々と話をつづけた。

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モノボウズ

「…このように、その封筒には紛れもない真実が書いてあります。

 あの虚言で塗り固めた愛欲モンスターのようにされたくないなら…

 どうか、皆さまのご協力を」

 まるで彼女が悪者かのように、自分たちが正義であるかのような物言いに、封筒を握る手が震える。

 この中にどんな秘密が書いてあるのか。もしそれを知られた時、自分は冷静でいられるだろうか?

らぶり『口が悪いわね、あのロボット……。』

才羅『……』(生存者たちの秘密から目を逸らして俯いている)

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物造白兎

「機械に人間のことなんてわかんねぇみてぇですね。」

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モノボウズ

「さぁ、秘密が漏れぬように、中身はコテージでご確認なさった方が

 よろしいでしょう。私はそろそろお暇を…」

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沙梛百合籠

「待って」

 ざわつく空気を凛と凪ぐような、鈴の声がする。幼い少女はまっすぐにモノボウズを見据えながら、秘密の書かれた用紙をぱっと広げた。

 

 『沙梛百合籠は、本当は小学生ではなく【超高校級の標本士】だ。その才は本物だが、実は【色盲】で色の判別が出来ない不完全な才能でもある』

 

 そこに書かれた文章に、モノボウズとみいなに向いていた視線が百合籠に刺さる。この蝶子達と同年代にしか見えない儚い少女が、本当は高校生だという事実に驚きだが、それよりも。

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モノボウズ

「…自ら秘密を明かされるとは、どのようなおつもりで?」

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沙梛百合籠

「こんなものは、私の秘密とはいえないから」

 いつもふわりとした喋り方で、どこか浮世離れした少女の声は、最早少女の声とは呼べなかった。

 色の無い彼女の声に載せられたそれは、憎悪、そうとしか言えない鋭さと冷たさだった。

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沙梛百合籠

「私は超高校級の標本士、沙梛百合籠。そして…

​ 矢継橋美録(やつはしみろく)からアンプルを受け継いだ者」

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沙梛百合籠

「貴方達が探していた落とし主は…

 時が止まったように、静まり返る。果てしなく長く、短い一瞬の間は息も忘れてしまい、言葉が上手く紡げなかった。

 見知らぬ名前、アンプル、落とし主。溢れかえる情報に誰もついていけず、ただモノボウズだけは静かに百合籠を見返していた。

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物造白兎

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

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良田アリス

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栂木椎名

「えぇ!?ど、どうなってるんだ……?」

「えー!?百合籠ちゃんが悪い人なの!?」

「おいおい……何が何だか分からないな」

「...何か知らねぇですけど、アイツらに落し物さっさと返しやがるです。」

らぶり『お、落とし主、って…………』

おとり『……へぇ〜、つまりあのガキのせいで、俺は死んだわけか?』

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モノボウズ

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沙梛百合籠

「……………貴方が、アンプルをこの島に持ち込んだのですね」

「殺すなら殺してどうぞ、美録ちゃんのように。けど…アンプルは

 ここにはない。私を殺せば、アンプルは永遠に見つからないわ」

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モノボウズ

「貴方はアレがなにか分かっているのですか?

 あんな恐ろしい物を持ち込むなんて…」

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沙梛百合籠

「私も中身は知らない。でも、美録ちゃんが最期に私に託してくれた物…

 お前たちの好きになんて、させないわ」

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モノボウズ

「今すぐアンプルを出しなさい。そうすれば、命までは奪いません」

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沙梛百合籠

「そうやって平気で残酷なことをするのでしょう?

 美録ちゃんのことも…っ。拷問でもなんでもしたらいいわ。

 痛みや死なんかで、私に傷はつけられない」

 しばらくにらみ合った末に、先に折れたのはモノボウズだった。

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モノボウズ

「…アンプルの捜索に私は移ります。

 沙梛百合籠…貴方の処分は後に下しましょう」

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沙梛百合籠

「あら、拘束でもするかと思ったわ」

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モノボウズ

「したとことろで意味がありませんから。

 私はアンプルさえ見つかれば、それでいいのです」

 聞きたいことは山ほどある。しかしそれに口を迂闊に挟めない空気は、モノボウズが立ち去ったことでやっと緩んでくれた。

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沙梛百合籠

「…ごめんなさい。アンプルのことを秘密にするのが、美録ちゃんとの

 最期の約束だったの。どんなことになっても…

 殺し合うことになっても、言えなかった」

 そう言う百合籠の目に、後悔も憂いもない。色の無い瞳はただ世界を映すだけのレンズとして、彼女の両目に納まっている。そこに感情があるとすれば、全てに対する無気力感だろうか。

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沙梛百合籠

「美録ちゃんは私の大切な人よ。……今ではもう過去の話でしかないのだけど」

らぶり『思うところはあるけれど……これでコロシアイが終わるならそれはそれで良いですね。』

 

 封筒の秘密、明かされた秘密、深まる秘密。知れば知るほど分からなくなり、全て投げ出してしまいたい。

 

 グラスの氷はすっかり溶け、机の上で鈍く光っていた…ーーー。

Chapter3(非)日常編 終了

Chapter3

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