Chapter1(非)日常編
Chapter1―2xA+xyB=xyA+2xB―
(非)日常編
その日の早朝、各コテージには1つの手紙が配られた。
『本日の9時、必ず講堂までお越しください。講堂まで来られない方は、お迎えにあがります』
簡素な言葉は、最初に届いた招待状のような丁寧さも、パーティへの招待状のような暖かさもない。この穏やかな日々の中で、飾り気のない手紙は冷たささえ感じる。
雨土筆らぶり
螺河鳴姫
芍薬ベラ
大鳥外神
良田アリス
角沢才羅
栂木椎名
「手紙……」
「変な手紙なの〜」
「…?なんだか今までと雰囲気が違いますね?」
「9時?身体が動くだろうか…(小さくあくびをする)」
「大仰だなぁ、わざわざ迎えまで寄越して」(手紙ぴらぴら)
「ふわぁ…アリス、ねむねむなのにぃ…(目元をくしくし)」
「まったく……なんなんだ一体」
断る理由もなく、16人は講堂に足を運んだ。先日行ったパーティの広間は、テーブルが1つ置かれているだけの物静かな空間になっていた。
モノボウズは人数を確認すると、無機質な音声を流し始める。
モノボウズ
「皆様、急な招集のご無礼をお許しください。
挨拶は抜きにして、こちらをご覧ください」
モノボウズが示したのはテーブルに乗ったシャーレだった。蓋つきのシャーレの中をよく見ると中に小さな紙切れが入っており、小さな言葉で何かが書かれている。
姫宮蝶子
「なんですかこれ…?蓋なんてしてたら見えにくいじゃないですか」
モノボウズ
「これに触れないでください!これは非常に危険なものなのです!
蓋をあけるなどもっての他です!」
よく見ようと蝶子がシャーレに手を伸ばした瞬間、ぴしゃりとその手が叩き落される。同時にモノボウズが警告音のようなけたたましい音を出しながら、シャーレを遠ざける。
これまで無機質ながらに客人を歓迎していた様子とはまるで違い、まるで自分たちが責められているような気分になる。
よく見れば広間の隅には監視カメラが設置され、逐一こちらの様子を観察しているのだろう。
モノボウズ
「この中に、これの持ち主がいるはずです。今すぐ名乗り出ていただければ、
我々も手厚く対応させていただきます。
しかし、もし名乗り出る方がいなければ…強硬手段に出ざるえません」
君野大翔
「な、なんだかものものしいね」
音切おとり
「ちょ、ちょっとォ~…子供にむきになりすぎじゃない??
ボウズちゃんなんかこわいよ?」
芍薬ベラ
「持ち主を探してるにしては、ちょっと空気がやばやばなの〜
この紙と島の安全が関係あるなの……?」
栂木椎名
「心当たりある人、居る?ちなみに、ぼくはないよ。こんなのはじめて見た。
強行手段だなんて、穏やかじゃない言い回しだな……
そんな脅すようなこと言ったって、知らないものは知らないよ」
不穏な言葉にざわつく中、名乗り出る者はいない。顔を見合わせては、あの紙切れはなんだ?分からないと首を降るばかり。
5分、10分…いくら待っても、持ち主が名乗ることはなかった。モノボウズは落胆したように俯き、無機質な声をさらに冷たくして言った。
モノボウズ
「…仕方がありませんね。手荒なことは仕方なかったのですが…島の安全を
守ることが、私のお役目なので。どうぞ、恨まないでくださいまし」
そう言い終わると同時に、風を切る音が響く。それも1つや2つじゃなく、同時に何か所もの場所から聞こえ、それは目にもとまらぬ速度で身体を横切っていく。
飛び出したものが床や壁に突き刺さる音に混ざって、人のうめき声が聞こえた。
アヴェル
「あっ、蝶子ちゃん危ないっ!」
角沢才羅
「なっ…!?いっ、なんだよこれ…!」
桜春もち
「わっ!?えっ……い、痛っ…」
芍薬ベラ
「きゃぁ!?な、なんなのっ…!?」
大賭清一
「っ…!っつ…こんなちっさい子に、何しようとしてんの?」
目線を向けると、黒い槍が何本も飛ばされ、何人かは槍が掠め、血を流していた。飛び散った血に裂けた服と皮膚の赤さに眩暈がした。
痛みで反射的に伸ばされた手のひらには、べっとりと血が付き痛みをさらに助長させる。
ひらひらと可愛らしいと思ったモノボウズの裾からは、機械仕掛けの腕が伸び黒い槍を収納している。あの案内ロボットに、何故こんな性能があるのだろう。
雨土筆らぶり
良田アリス
「きゃあっ!」
「きゃっ、びっくりしちゃった」
大鳥外神
姫宮蝶子
「えっ……(周囲の惨状を見回して困惑している)」
「え……え…?な…っ、カルティエさん…?」
角沢才羅
芍薬ベラ
「ひぇーん……痛いなの〜!暴力反対!なぁの!」
「……どういうつもりだ、下手したら死んでるぞ」
モノボウズ
「持ち主が名乗り出て下さらない。ならば我々もこうするしかないのです。
今のはもちろん脅しなだけで、我々はあなた方をどうとでも出来る…
ということをご理解ください」
モノボウズ
「これはこの島にあってはならないもの。これを持ち込んだ人を、我々は許
すことができません。これ以上無関係の皆様を犠牲に晒すことは、私達も
望みません。ですのでどうか、名乗り出てはいただけないでしょうか?」
血の匂いが混ざり荒い息遣いが響く広間。その中で合っても、矢張り名乗り出るものはいない。黙っているのか、本当にいないのか…しばしの静寂を返事と受け取ったモノボウズは、心底残念そうに俯いた。
モノボウズ
「…仕方がありません。持ち主が見つかるまで、我々は貴方達を
客人ではなく容疑者として扱うことにします」
栂木椎名
「お……オイオイオイオイオイオイ……冗談だろ、なんだよコレ……
冗談キツいなぁ…漫画だったら作風が変わりすぎだよ。担当編集変わった?」
螺河鳴姫
「何が起こったんだ?大丈夫かい、みんな…。」
君野大翔
「えっ……え?え?」
音切おとり
「え~…なにこれ…??あ、あれだ!やらせでしょ~??」
御透ミシュカ
「うー…なんなのこれー…」
雨土筆らぶり
「ど、どうしよう……」 (おろおろ)
芍薬ベラ
「容疑者って、物騒なもの落としておいて酷いなの。
流石のらーちゃんもないちゃうなの〜。ふぇぇん……(ぽろぽろ泣き)」
モノボウズ
「ここまでしても黙っている持ち主のことです。きっと皆様同士で
話し合ったり拷問しあっても、明らかになることはないでしょう。
なので我々は、持ち主探しを【ゲーム】の形式で行うことにしました」
モノボウズ
「これより一定の期間の間に、皆さんには【コロシアイ】をしてもらいます。
誰かが殺人を犯し、その死体を発見すれば【捜査】に移った後、
【裁判】にて犯人…クロを捜すことにします」
モノボウズ
「ただ殺しあえ、と言われても利益がありませんね。なので…人を殺し、
皆様を欺き裁判にてクロとバレなかった方は、島の外へお返しいたします」
モノボウズ
「嫌でしょう?そんな生活は。島でのんびり暮らしたいでしょう?
ならば皆さんは、持ち主を探してください。それが一番早いのですから」
モノボウズ
「これを聞いている持ち主の方は、いち早く名乗り出て頂きたいものです。
貴方のせいで誰かが殺し殺される前に。今怪我を負った方たちのような
犠牲者が出る前に」
淡々と告げられた、冗談のような提案に一同は言葉に迷う。ゲーム?コロシアイ?犯人が見つからないから、皆で疑いあい殺しあえと?
音切おとり
「ちょ…ええ~…マジなん?これ…コロシアイとか意味わかんねぇんだけど…」
栂木椎名
「……さっきの返答を繰り返すようだけれどね、
知らないものは知らないよ。少なくともぼくはそうだ」
大鳥外神
「おいおい…………名乗り出てくれよ……」
角沢才羅
「……まず、なんなんだよその紙切れは……」
雨土筆らぶり
君野大翔
芍薬ベラ
「え、あの、もう少しそれについて説明してくれませんか……!?」
「え、ええ……そうだよ、意味がわからなすぎる」
「勝手にやっといて、放置するな、なのー!
もっと細かく説明して欲しいなのー」
物造白兎
姫宮蝶子
「....やべぇとこに来ちまったです...はぁ....」
「っ…私たちは客人として招かれたから、わざわざやってきたんですよ!?
それを、殺しあえと…しかもゲームだなんて、馬鹿にしないでください!」
モノボウズ
「我々は貴方達の良心に訴えかけているのです。今すぐ全員をこの場で
丸裸にして、体の内側まで調べたって構わないのですよ?」
その言葉が脅しだけでなく本気なのだということは、先ほどの槍で嫌でも分かってしまう。この一見可愛らしい小さな機械は、非人道的な手段だって厭わずにとるだろう。
姫宮蝶子
「こんなことが…っ、姫宮家の長女の私に手を出して、ただで済むと
思わないでください!!」
モノボウズ
「貴方達が帰らなければ、外の方も心配して…
いえ、その頃には彼らも無事では済まないでしょうね」
姫宮蝶子
「それはどういう意味ですか…?まさか、貴方達は父や母にまで何か…!?」
モノボウズ
「…皆様の健闘、応援しております」
モノボウズ
「さて。本日はもうお戻りいただいて大丈夫ですよ。
施設は今まで通りご利用できますので。それでは、お気をつけて」
理解もままならぬ間に講堂を出ると日はまだ高く、朝に集まってそう時間が経っていないことに気づく。だというのに、朝から晩まで走り抜けたような疲労感がどっと伸し掛かる。
昨日までは海辺で遊び温泉でくつろぎ、パーティを楽しんだりしていたというのに、今ではあちらが夢だったのではないかと思ってしまう。
周りを見渡せば、皆疲労感に包まれた顔をしていると同時に、どこかくすんだ目をしている。
良田アリス
「アリスたちが殺しあわないと、パパやお友達を殺すよ~ってこと??
やだぁ、アリスこわーい」
君野大翔
「おかしいでしょ、さすがに、こんなの……
そもそもなんで怒られてる?のかもわからないし……」
螺河鳴姫
栂木椎名
角沢才羅
大鳥外神
芍薬ベラ
御透ミシュカ
沙梛百合籠
「勝手にそちらの都合を一方的に話された上、ゲームだなんて……はぁ。
ぼくたちからどうしても容疑者を探し出したいのは分かるけれど」
「……くそ、考えがまとまらない……」
「さ、流石にやりすぎじゃ……やば………」
「変な話に巻き込まれてしまったな…。」
「……悲しいわ、とても。どうしてこんな事をするのかしら。分からないわ」
「勝手にやっといて、放置するな、なのー!
もっと細かく説明して欲しいなのー」
「…ちょっと前まですごい楽しんでたのに……(海見ながら)」
角沢才羅
「大丈夫ではないだろ。……あのロボットの持ち主は結局今まで顔を
出さないし、どうなってるんだ……」
桜春もち
「痛いです〜」 腕を抑え
アヴェル
「痛い……今回ばかりは…運に見放されたわ…
(腕を抑えてぺしょりと座り込み)」
大賭清一
「かすっただけでまだ良かったわ」
芍薬ベラ
「ふぇぇぇん…………(めそめそ泣いてる)」
雨土筆らぶり
「あっ、そ、それより怪我をした皆さんの手当てをしないと…!」
大鳥外神
「は、早く消毒して適切な治療を……」
螺河鳴姫
音切おとり
栂木椎名
物造白兎
御透ミシュカ
栂木椎名
「ええとまとめると、犯人が出てくるか犯人がコロシアイに巻き込まれて
死ぬまでコロシアイをする…ってことでいいのかな。……。夢?」
「.....とんだとばっちりです(むすっとして裁縫してる」
「はぁ……急に呼び出したと思ったら、怪我人を出して、
挙句コロシアイだなんて、訳の分からないこと……癇癪を起こした
子供じゃあないんだから、もう少し冷静に話して欲しいよね。
「…怖いよ…こんなの眠れるわけないよ……」
「はーぁー…(溜息)バカンスがとんでもないことになっちゃったなァ…」
「管理AIとして大丈夫なの、アレ。修理出した方がいいんじゃないかな。
あーあ、この島に業者さんが居たらなぁ」
逃げ出したい。どこへ?この孤島からどこへ逃げられるというのだ。
あの紙切れの持ち主さえ見つかれば、自分たちは助かる?持ち主は何故名乗り出ない?様々な思考が巡り、口は重たく閉ざされた。
あんなに澄み渡る空が、今は遠い気がした。