Chapter1
Chapter1―2xA+xyB=xyA+2xB―
非日常編
モノボウズの豹変から数日が経ち、何事もなく穏やかな時間が過ぎてゆく。謎の紙の落とし主が誰かも分からず、コロシアイの片鱗も見えず、穏やかなことがかえって恐ろしく感じる。
己の心の平穏を保つように、静かに皆は日常を過ごしていた。
▼図書館
森の中に佇む図書館には様々なジャンルの本が揃い、暇をつぶすには丁度良く毎日誰かしらが訪れていた。
大鳥外神
「ちゃんと入り口で靴を脱ぐタイプなんだね…
良かった、泥が中に入らずに済む」
栂木椎名
「大鳥さん、ほんと綺麗好きと言うか潔癖症と言うか…」
良田アリス
「この図書館のスリッパのぺたぺたした感じ、慣れないな~」
アヴェル
「気晴らしに小説でも借りようかしら…結構高い所にあるわね」
音切おとり
「俺そこまで届かないや。アヴェルちゃん~とってェ~」
栂木椎名
「小説に漫画に専門書…映像資料も揃ってるから、中々興味深いよ」
大鳥外神
「あ、埃…書物の掃除は特に気を使ってほしいんだけど…」
数名が本棚の前で雑談する横で、アリスがじっと本棚を見上げていた。目当ての本は一番高い棚にあり、誰も手が届かず仕方なく脚立に足をかける。カンカンと音を立てて登り、お目当ての絵本を手にしてにっこりと笑った。
その時、ぐらりと脚立が揺れた。
良田アリス
「きゃっ…!?」
アヴェル
大鳥外神
音切おとり
「えっ、あっ、アリスちゃん!?」
「なっ…アリスちゃん、危ないっ!」
「ちょっ、なんでこっちに、いてー!!!」
まっさかさまに落ちてくる少女を、一番近くに立っていた外神が咄嗟に受け止める。おかげでアリスは地面への激突は免れた…が。
普段研究室にこもりきりの男に小学女児を抱えるのは相当な負担だったらしく、その体はよろりとふらつき、隣にいたおとりにぶつかりドミノ倒しのように倒れた。
栂木椎名
「だ、大丈夫かい…?」
音切おとり
「どうせ倒れてこられるなら、女の子の方が良かったァ~!
二人分の体重が重い~!!」
良田アリス
「アリス重くないもん!!」
大鳥外神
アヴェル
「うわっ、床に身体がついてしまった…!早くお風呂に入らないと…!」
「女の子をキャッチして言う事がそれなの…?」
▼ショップ
螺河鳴姫
御透ミシュカ
「このマニキュアきれい…キラキラしててかわいい~」
雨土筆らぶり
「このブランドのやつ、ちょっとやそっとじゃ剥げないから
手作業してても気にしなくて済むんだよ」
「ライブでもよく使います。御透さん、こっちに試供品があるから
一緒に付けてみます?」
大賭清一
「酒とタバコを夏の浜辺でだらだら楽しめる…っか~、極楽だねぇ」
姫宮蝶子
「のんきですね貴方…ところで金銭は持ち歩いてないのですが、
このショップの買い物はどうすれば…」
モノボウズ
「金銭は不要です。ただ在庫管理がありますので、
レジは必ず通してください。レシートも発行しますよ」
芍薬ベラ
物造白兎
物造白兎
「足りない材料はここで買えばいいのです。
綺麗につくろってやるから、待ってるですよ」
「ありがとなの白兎ちゃん。ベラのコルセット、ボウズちゃんに襲われた時
破けちゃったから…ごめんなの」
「別にてめぇは悪くねぇです。勝手に怒ったボウズが悪いのです」
モノボウズ
「ああ、それと…そろそろ温泉の修理が終わるので、最終の掃除や片付けの
手伝いを募集しております」
物造白兎
モノボウズ
「たくさんロボットいるのに、手伝いなんているのです?」
「細かい作業は、やはり皆様の器用な指の方が得意ですので…
おや、いらっしゃいませ」
大鳥外神
「はぁ…しばらく左手は固定しておいた方がいいな…」
沙梛百合籠
大鳥外神
「あら、お怪我をしてしまったの?」
「ちょっと手をひねってしまってね…もう少し若かったら
ここまで傷めなかったと思うけど…」
一見、あの負傷事件以前となんら変わりなく見える。しかし確実に、誰かの胸の内はざわついて仕方がない。
こうしている間に、殺害を考えている人がいたら?島から永遠に出られないのでは?残してきた家族や友人になにか起こるのでは?不安は尽きず、吐き出すことも出来ず、表面上だけは笑って過ごす時間がもどかしい。
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その日の夜…。
芍薬ベラ
「…はぁ、なんだか寝付けないのー…」
とぼとぼと夜道を散歩する1人の少女。不用心極まりないが、彼女の頭には「夜一人で出歩いて襲われるかもしれない」という発想はないらしい。
皆が寝静まる夜は街灯の明かりも少なく、うっすらとした輪郭しか見えなくとも、花の香は変わらない。
コテージから温泉へ続く道は鮮やかな花が植えられ、湯上りの散歩道にうってつけだ。
芍薬ベラ
「ここのお花、いい香りなの…暗くて見えないけど。……あれ?」
ふと足音が聞こえ、振り返ると一瞬誰かの影が見える。
見えたのは長い髪の毛のシルエットで、声をかけるより先にその人物は行ってしまった。
芍薬ベラ
「…ジョギング?なーの??」
特に気にすることもなく、ベラも引き返しコテージへと戻ることにした。
…もし、あと少し進んでいれば、この事件も何か変わっていたのだろうか。
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温泉の工事が終わったと知らせを受けたのは、次の日の朝だった。
姫宮蝶子
螺河鳴姫
桜春もち
「コテージのお風呂も悪くないけど、やっぱり手足を伸ばせる
温泉がいいです~!」
「それじゃあこの後、朝風呂はどう?
夕方や夜に入るのとはまた違って気持ちいいよ」
「せっかく綺麗に直ったばかりですし、悪くないですね」
何人かで集まって、朝日を浴びながら温泉へと歩いていく。遠くからでも分かる湯気と、少し湿気た暖かな空気の流れを見るのは久しぶりだ。
更衣室に入り入浴準備をする時、蝶子がふと衣類をいれるカゴの1つに目をやり首を傾げた。
姫宮蝶子
螺河鳴姫
桜春もち
「あれ、服が入ってる…もう誰か入りにきたんですね」
「それにしても、すっごいぐっしょりですね~…海に飛び込んだ後みたい~」
「おや、一番風呂は逃しちゃったようだ。
海で泳いだ後、そのままここに来たのかな?」
そんなことを言いながら浴室への扉を開くと、予想通り誰かりが湯船に浸かっていた。
縁にもたれてまどろんでいるのだろうか、こちらの音には反応しない。
近づいて挨拶をしようと思った時に見えたのは、首を一蹴する浅黒い痣だった。
同時にその身体がまどろんでいたのではなく、力をなくしだらりと縁にひっかかり、湯船につかっているのにも関わらずその顔色は白かった。
その顔に輝きはなく、その美しい声が紡がれることは二度とない。
姫宮蝶子
「ひっ…きゃああああ!!!!!」
気が付いたときには叫んでいた。大声を出すなどはしたないと学んできたことなど全て吹き飛んで、心が乱れるままに喉から声が出ていた。
螺河鳴姫
「蝶子ちゃんっ、見ちゃだめだ!」
桜春もち
「はわ、あわわ…ど、どうしたら…っ」
モノボウズ
「ついにこうなりましたか。こうなるようにしたのは、私達ですが」
番頭のモノボウズがいつのまにか背後に浮かんでおり、らぶりの遺体を見下ろしながらいつも通りのトーンで話し続ける。
モノボウズ
「ともかく、ここにいる人達だけではどうしようもありませんね。
調査もしなければなりませんし、全員に通達しましょう」
モノボウズがそう言うと、温泉内のスピーカーが起動した音がした。
モノボウズ
『死体が発見されました。場所は温泉の女湯。ただいまより捜査時間と
なります。捜査後に裁判を行いますので、皆さまの奮闘を期待しております』
その声は島中のスピーカーから聞こえてくるのだろう。遠く離れた場所からも響いてくる声は、目の前のらぶりはもう二度と息をしないことを知らしめた。
ほどなくして全体放送を聞きつけた者が次々と温泉にやってくる。
君野大翔
角沢才羅
「さっきのアナウンス何だい…!?温泉で何が…」
「ちっ、女湯に入れっていうのか?」
芍薬ベラ
御透ミシュカ
「し、死体って…誰が…それにお風呂場でって…」
「わわ、男の子は入っちゃだめなの~!!」
良田アリス
アヴェル
大鳥外神
「ふわぁ…せっかく気持ちよく寝てたのにぃ…」
「子供にこんな現場を見せたくないんだけど…」
「どうしてこんなことに…?」
物造白兎
大賭清一
栂木椎名
音切おとり
沙梛百合籠
「あら…貴方達、くるのが随分遅かったわね」
「ぜぇ…はぁ…ショップにいたから、遠くて…っ」
「鼻緒が切れちゃって走れなかったんだよォ~」
「昨日…酒飲み過ぎて、頭いてぇ~……」
「情けねぇ野郎共です」
モノボウズ
「アナウンスしました通り、死体が発見されました。皆さまにはこれより、
事件の犯人…クロを見つけるべく、【捜査】をして頂きます」
モノボウズ
「ある程度時間が過ぎましたら、講堂にて【裁判】を行い、
話し合いの結果誰がクロかを当てて頂きます」
モノボウズ
「…とはいえ、素人の皆さまでは自力で調べるのも限界があります。
なので、こちらである程度の死体の状態をまとめさせていただきました」
物造白兎
「....そうですか」
大鳥外神
「本当に人が死んでいるのか……? 嫌だな…………」
栂木椎名
「ハァ、ハァ……い、一体誰が?それに、裁判だなんて……」(膝に手をついて
御透ミシュカ
「…素人に捜査ってどうしたらいいの…?」
音切おとり
「とりあえず、は、裸なのなんとかしてあげてよォ〜」
螺河鳴姫
「そ、そうだよ。タオルでもかけよう。」
良田アリス
「湯冷めしちゃうもんねー」
姫宮蝶子
「こんなファイルを用意するくらいなら…事件だって止められたんじゃ
ないですか!?貴方達、あちこちにいるんでしょう!?」
モノボウズ
姫宮蝶子
「先日申し上げた通りです。我々は紙片の持ち主を探したい。
そのためのあぶりだしだと。私も主人も辛いのですよ」
「貴方の主人は…ここの島の管理者は、そんなことを許しているの
ですか!?信じられないっ…こんなのもう、私たちの手で負えませんよ!
警察に連絡してください!」
モノボウズ
「それは出来かねます。さぁ、ここでごねても調査の時間が短くなるだけ
ですよ。聞き分けが悪い子供は、素敵なレディになれません」
何を言っても無駄なことを悟り、唇を噛んで俯く蝶子は、さっと踵を返す。
殺人、捜査、裁判…理不尽さに嘆いても、失われた命は戻らない。雨土筆らぶりは、もういない。
角沢才羅
栂木椎名
螺河鳴姫
大鳥外神
桜春もち
大鳥外神
栂木椎名
芍薬ベラ
沙梛百合籠
「ちっ……本当に、やったやつが出たのか……?」
「信じ難いけれどそういうことでしょう。まあ、これもひとつ経験かな……」
「な、なんで殺人なんかが起こるんだ…?どうみても他殺でしょ…。」
「最悪だ………本当に殺人が起きるなんて…早く名乗り出れば良いのに………」
「らぶち……」
「……雨土筆さん」(目を伏せて)
「…………ファン、だったのにな……………」
「……うぅ……どうしようお花さん……(お花に向かって話してる)」
「……みんな、大変そうね。なにか出来ることはあるかしら?」
今、最初の事件の幕が開ける…―――。