top of page

chapter2-番子の墓に呼子鳥-

chapter2-番子の墓に呼ぶ子鳥-非日常編

才能を持った素晴らしき人材、超高校級だった者によるパフォーマンス。
聞こえは良いが、この場にいる者にとっては恥を晒す大道芸だと誰が言ったか。
 
本日は音楽と踊りの才能による合同披露として舞台が開催される日だ。
舞台がセットされる体育館の騒々しさに包まれながら、昼下がりに施設中にマイクの音が広がった。
 
『これより合同才能披露の舞台を始めましゅ。興味がある人はぜひお越しを~』
 
館内放送に素直に足を運ぶ者、我関せずと素知らぬ顔をする者、当事者であり舞台を見てため息をつく者。
誰がどんな反応をしても、幕は開かれ最初の演者が一歩前へ踏み出した。





稲光が走った後に星屑が瞬くような閃光。
思わず脳裏に満天の夜空が広がらんばかりのギターの音色が奏でられる。

歌声はなくとも、その音色はまさしく元超高校級の実力の片鱗を感じるものだった。

 

リサイタル.jpg

それは最後の演目の時であった。

踊瀬舞円華のステップが舞台に響く中、一人体育館から立ち去る者がいた。
青黒いポニーテールを揺らす遠雷紬の顔色は悪い。才能を披露しろと言われて難色を色濃く示したうちの一人であり、今ようやく自分の番が終わって自室に帰ろうと思ったところだった。

遠雷紬5.png

遠雷紬

「……っ、……」

nc234186.png

防音加工された体育館の扉だが、音楽の才能をもつ遠雷の耳はまだその音を拾い続けていた。
はやく、はやく部屋へ戻ろう。そう思った時だった。
 


散らばる銀糸と紅糸はピエス・モンテ、まざる蒼と橙はブルーベリー&オランジェ。
歪にゆがんだマジパンの足に、何もつかめぬラングドシャ。
手鞠飴と花飾り、血まみれ臓物ジャムと彼女。

しろすち_加工.png

階段下に横たわる、まだぬくもりの残る天城飴梨の姿を目にした瞬間に。
 



『死体が発見されました。これより一定期間の後に裁判へと移行します』
 


施設内全域に響いた無機質なアナウンスに、誰もが動きを止めた。

遠雷紬3.png

遠雷紬

「……ヒュッ…、…」

体育館の方から続く足音は階段下で止まる。
すでに体温も眼光も失われた顔は、あの時の毒桃の顔と同じ死の表情だ。
 

リリー.png

リリー

「……………………は…?あまり…ちゃん?」

フェイ2.png

フェイ

「一体誰が…… ッ…!!」

茶渡利三沙.png

茶渡利三沙

「今度は一体な、に……」

描成絵智3.png

​描成絵智

「……っ、だ、だれ、誰か、誰か来てください!!

 誰か…!!」

nc234186.png

騒ぎが収まらぬうちに、階段の上から描成絵智の叫び声が響いた。
教会から響いたその声に、最初に駆け付けた琴ノ緒閑寂が扉を開く。
 

白い教会の真ん中で、それは一際赤かった。
青い海色の衣も、白く透けた銀の髪も、幼さの残る四肢も、すべてが赤かった。
金の瞳は天井の天使を見上げて何を思うか。
 

滑川ぐみの物言わぬ亡骸を、描成はひしりと抱き涙が白い頬に落ちていく。




『死体が発見されました。これより一定期間の後に裁判へと移行します』



 続くアナウンスに、彼女もまた儚く命が散ってしまったと悟る。

琴ノ緒閑寂.png

琴ノ緒閑寂

「はあ……!?なんだよ、おい、……えっ?はあ!?」

描成絵智3.png

​描成絵智

「滑川さん・・・っ滑川さん・・・!起きて、…滑川さん、なん、で……」

アリア.png

メアリー

「っ……二人、ですか……?」

緑紅茶.png

紅緑茶

「な…一体何が…!?なんで二人も…」

リリー.png

リリー

「あーあ。また人が死んじゃって。かわいそ~~♡」

琴ノ緒閑寂.png

琴ノ緒閑寂

「なんだよ、どういう事なんだこれ……」

糸色恋花7.png

糸色恋花

「…ぁ、あう…、………」

カレブ『死体ぃ?何だ、お前達の誰かも結局人殺しではないか』
毒桃『やだ、またなの…?』

立て続けて見つかった二つの死体に騒ぐ声を収めることができない。
教会の目の前に階段があり、階段の上にも下にも皆が一斉に集まっていた。
 


いや待て。
 

ひとり足りない。
 

それに最初に気づいたのは茶渡利三沙だった。

茶渡利三沙.png

茶渡利三沙

「…?あの子はどこへ行った…?」

ちびエルがシーツを干す保健室、いない。
リリーが出てきた喫煙所、いない。
24時間いつでも入れる大浴場、いない。
いつも誰かは遊んでいる遊技場、いない。
 
バーの扉に電子手帳をかざし、茶渡利の入室記録が読み込まれ、ようやく鍵が開いた。
 

薄暗いバーの中は、むせかえるようなアルコールの臭いで充満している。
その原因はすぐに分かった。棚に飾られたアルコール瓶が落ちていくつも割れているからだ。
床に転がる瓶の残骸の中に、彼はいた。
 

静かに棚に背を預け、服は酒ででぐしゃぐしゃに濡れぼそっている。
日向の優しい色を映した髪は、血と酒が混ざり赤黒い悪臭を放つ。
濡れて割れたグラスにライトが反射して、きらきらと輝くのがより異質な光景だった。
 
香りに溺れるような部屋の中で、比与森閑古は深く目を閉じていた。

nc234186.png




『死体が発見されました。これより一定期間の後に裁判へと移行します』



 続くアナウンスに、彼女もまた儚く命が散ってしまったと悟る。

茶渡利三沙.png

茶渡利三沙

「……っ、多すぎだろう…。おい、こっちにも誰かきてくれ!」

琴ノ緒閑寂.png

琴ノ緒閑寂

「もう、もう……なんなんだよ、本当に……」

心条裁己2.png

心条裁己

「死体が三体もあがるなんて……一体、なにがどうなっていると

 いうんですか!」

三度目のアナウンス。三人の死体。目まぐるしく頭の中を駆け巡る情報に、ちかちかとめまいがしそうになる。

モノエル.png

​モノエル

「いいでしょ今のアナウンス。毎回エルが駆け付けるのも大変だから、

 施設内アナウンスを作ったんでしゅ!」


どこからいたのか、どこから見ているのか、モノエルはいつの間にか背後にいた。
出来上がった砂場のお城を見せびらかすように、幼く無邪気な声だった。

モノエル.png

​モノエル

「最近死体続きでしゅね。今後は誰かが死体を発見したら、

 アナウンスが鳴るようにしておきましゅ。

 どこにいても分かって便利でしゅ!」

踊瀬舞円華5.png

踊瀬舞円華

「毎回……」

糸色恋花3.png

糸色恋花

「………なによそれ、有り得ない…」

茶渡利三沙.png

茶渡利三沙

「そんな何回も死体が発見される事を想定しているのかい…

 頭が痛くなるね…」

アリア.png

メアリー

「そんなこと自慢されましても………」

花柳玲子2.png

花柳玲子

「……、…ああ、もう」

黒羽麗2.png

​黒羽麗

「……なんで?何がどうなってんの……?」

糸色恋花3.png

糸色恋花

「………10分ほど…苦痛…」

エリアス.png

エリアス

「……また、捜査をするのですね」

リリー.png

リリー

「…………あーあ。怖い。怖いわぁ~とっても悲しいです~~」 



3人。

そう、3人も死んだのだ。

そして彼らを殺した犯人がこの中にいる。
ようやく目をそらし必死で鳴らした1つ目の事件の胸糞悪さを、ずるりと引き出された気分だった。

 

毒桃『ひっく…なんで、なんでこんな…っ』
カレブ『可哀想になぁ。死体も殺人も慣れてない子供達だろうに』
毒桃『慣れてるわけないでしょ…う…天城さんっ…』

遺品 天城.png

​遺品「金色のカラトリーセット」

どの店どのパティシエの試作を食べるときにも

愛用してきたもの。
これを使うことへのプライドがあった、

これを使って正当な評価をしてきた。

遺品 滑川.png

​遺品「ぐみうしちゃんパーカー」

 小さな水族館の看板キャラクターモチーフの

パーカー。
かつては品薄の大人気グッズだったが、

今では販売されていない。

遺品 比与森.png

​遺品「ひよこの写真立て」

幼少期の閑古と両親が映った

古い写真が入っている。
まだ卵が一つだけだった時の過ぎ去りし

陽だまり色の幸福の残骸。

生き残り人数 2章前半.png

chapter2-番子の墓に呼子鳥-

bottom of page