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Chapter5

Chapter5――破滅の女神と勇者―裁判編(1)

 裁判の時間だ。

 数えるほどでもない人数だけを乗せたエレベーターが、地下へと降りていく。振動に身を任せ、地下の少し籠った空気にも何も思わなくなっていた。
 

 すっかり見慣れた裁判台に、なんの抵抗もなく並ぶ5つの影。

 前の裁判から人の数は減っていないが、心は確実にすり減っている。 

 

 コロシアイの目的、自分たちが招かれた理由、アンプルの正体、エリス…全てを明らかにして、この物語に終止符を打つべく、各々がここに立っていた。

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モノボウズ

「知らなければいい事が世の中にはある。だから私達は口を閉ざしました

 が、貴方達はどうしても知りたいご様子で」

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モノボウズ

「私達としては、何も知らずただ幸せに生きていてほしかった…

 ですが、こうなれば致し方ありません。心行くまで探ってください」

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モノボウズ

「真実を明らかにして、真相にたどり着いて、そして全てを受け入れて

 ください。それが突き止めてしまった貴方達の責任です」

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モノボウズ

「希望を持って挑むであれば、そこにあるのは絶望だけ。

 それでもなお島の外を望むのであれば……どうぞ、ご自由に」

 11人の遺影に見守られながら、モノボウズは最期の木槌を鳴らした。

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栂木椎名

島の外のことなんだけど……姫宮さんが拾ったボトルメールに書いてある

 ことが本当なら、大変なことが起きているようだ。一体なにが…」

☂ ボトルメール

雨傘島の砂浜に打ち上げられた、瓶に入った手紙。

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栂木椎名

「島の外の情報なら、森の奥の建物に記録があったわ。

 矢継橋美録という人物が残したもののようだね」

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大鳥外神

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物造白兎

「矢継橋美録…沙梛さんにアンプルを渡した人物のことですね」

「なんでその人の記録が、この島にあるのです…?

 もう死んでるって沙梛は言ってたですけど…」

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大鳥外神

「アンプルを持ち出した人の残した記録なら、重要なものでしょうし…

 モノボウズが回収したのかもしれませんね」

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アヴェル

「その記録によると、ワタシ達がこの島に来る少し前にパンデミック

 起こったみたいなの」

☂ パンデミック

矢継橋美録の残した資料に記載されていた。雨傘島に招待される少し前から流行り始めたようで、病状の特徴や危険性について記してある。

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​姫宮蝶子

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君野大翔

「この島に来る前も、一時流行病とかで騒ぎになりましたからね…」

「ああ、いつの間にか話題にならなくなったよね。

 流行が終わったのか、皆慣れちゃったのか…」

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物造白兎

「ぱんでみっく、ってなんです?」

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大鳥外神

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栂木椎名

「感染性の高い病気が、世界的に大流行しちゃうことだよ。」

「ああ…そういえば、海外で病気が流行ってるとかいってたかな。

 でも、あのニュースってパンデミックってほどの騒ぎじゃなかったし、

 しばらくしたら話題にならなくなったよね」

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物造白兎

「ほんとにその、ぱんでみっくってやつ、起こってるですか?

 んなもん聞いたことねぇですよ」

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栂木椎名

「何故矢継橋美録はこんな記録をとっていたんだろう…アンプルのことと言い、

 彼女は一体何者なんだ…?」

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芍薬ベラ

「その人についての資料なら、別の棚にまとめられてたの!

 なんかね、なにかの調査とか研究をしてたみたいなの」

☂ 矢継橋美録について

矢継橋美録(やつはしみろく)について書かれた資料。
「超高校級のフィールドワーカー。その才能を生かした現地調査・研究を担当している。〇月×日、エリスを1本持ち出し逃亡。その後対象を捕縛・処分したが、エリスは発見されず」

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大鳥外神

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アヴェル

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栂木椎名

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物造白兎

「超高校級のフィールドワーカーであり、研究者でもあった…

 どうやら彼女は、その才能を使って研究や現地調査をしていたようですね」

「この資料によると、エリスを盗み出して、その後捕まって、処分…

 殺されちゃったみたいね。エリスは見つからなかったようだけど」

「この矢継橋美録から、例のアンプルを受け取った沙梛百合籠は

 「誰にも渡してはいけない」と言われて、隠し持っていたんだよね?

 つまりそれって…」

「沙梛が持っていたあのアンプルこそが、美録が盗み出したエリス

 間違いねぇです!」

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アヴェル

「ねぇ…結局エリスってなんなの?

 手紙にも、エリスの魔の手から逃げてって書いてあったし、

 モノボウズも何回も危ない物って言ってたけど…」

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栂木椎名

「エリスが原因で国が滅び、そのエリスを盗んだ矢継橋美録が残した

 パンデミックの記録…これらが全て結びつくなら、エリスは

 パンデミックを引き起こした病原菌なんじゃないか?」

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芍薬ベラ

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アヴェル

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大鳥外神

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物造白兎

「あのアンプルの中身が、病原菌…?!それも、国を亡ぼすくらい危険な…」

「それじゃ沙梛ちゃん、ずっとそんな危ないものを持ち歩いてたの?!」

「沙梛さん本人もアンプルの中身は知らないと言っていましたが…

 とは言え、なんて危険な…」

「だからモノボウズ達は、あんなに必死になって探してたです…。

 もしアンプルが割れて中身が出ていたら、今頃うさぎ達みんな、

 死んじまってたです…?」

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栂木椎名

「もっとも、美録さんに対する沙梛さんの信頼と執着を見れば、

 中身を知っていたとしても手放さなかったろうけど」

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栂木椎名

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芍薬ベラ

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栂木椎名

「エリスって、病気の菌なの?それじゃあ……細菌学者の外神さんなら

 何か知ってるんじゃないの?」

「いや、むしろこの限られたメンバーの中で、細菌の専門家がいることが

 偶然とは思えない」

「…外神さん。貴方は美録さん同様に、エリスの研究者の1人なのでは

 ないですか?」

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大鳥外神

「それは……」

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アヴェル

「モノボウズやアリスは、エリスのアンプルのことを知っていた。

 それに美録の資料なんかがあることを考えると、この島そのものが

 エリスと深く関わっているはずよ」

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物造白兎

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芍薬ベラ

「それに、島の管理者から送られてきた招待状は超高校級しか使えない便箋

 使われてたです!特別な便箋だから、覚えてるです!」

「超高校級で、細菌に関わる研究者で、エリスに関わる人…そんなの、

 外神さんくらいしか思い当たらないの…」

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芍薬ベラ

「外神さんがこの島の管理人…つまり、このコロシアイの黒幕なの!」

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大鳥外神

「…ここまで来たら、もう隠しだてる意味はありませんね」

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大鳥外神

「僕が雨傘島の管理人…そして、エリスを生み出し、モノボウズと

 アリスちゃんと一緒にコロシアイを企てた…黒幕だよ」

 大鳥外神は、静かに目をつむり、ゆっくりと開く。その表情は穏やかで、少し寂しそうで、しかし悲嘆や怒りはない。

 

 罪を暴かれた悪党や、まだ悪だくみを考え足掻く犯人にはとても見えない。いつも通り、少しばかり影の差した暗い顔で、困ったような目つきで、ただ4人を見つめ返した。

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物造白兎

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芍薬ベラ

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栂木椎名

「がしんが、コロシアイの黒幕………うそつきが」

「なんでコロシアイなんてしちゃったの!?それでたくさん人が死んで…」

「そもそも、どうしてエリスなんて危険な物を作ったんだ!

 それで国が1つ滅んでいるんだよ?自分がいかに愚かな行為を

 しでかしたか、分かっているのかい?」

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大鳥外神

「…国が1つ滅ぶ、ですか。…僕のエリスがそんな程度で、収まるわけが

 ないでしょう」

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大鳥外神

もうとっくに世界は滅んでいます

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芍薬ベラ

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栂木椎名

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アヴェル

「え…ど…どういうことなの…?!」

「……滅んでる、ってことは……つまり、ぼくらの家族も……」

「いったい、外の世界で何が起きたの!?貴方は何をしたの…っ」

みいな『ホントにそんなことあったの…?作り話じゃなくって…?』

おとり『外はもう滅んでる?ふーん、それじゃ気に食わねぇ親父たちも

    おっちんでるわけだ。こりゃいいわ』

 それまで抑えていた感情が溢れるように、アヴェル早足で外神に駆け寄る。

 これまで死んでいった人達の、これまで苦しんだ自分たちの事を知っておきながら、この男は何をしたのだと。感情を手のひらに乗せて、外神の頬を叩く音が響く。


 

 感情をぶつけられても、暴力をぶつけられても、外神は抵抗も怒りもせずに落ち着いていた。コロシアイを企てた男とは思えない悲しい目をして、4人に向き直る。

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大鳥外神

大鳥外神 困り.png

大鳥外神

「…順にお話しましょう。落ち着いて聞いてください」

「聞いてくだされば納得いただけることでしょう。

 僕達の目的も、これからのことも…」

Chapter5

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