Chapter3
Chapter3―少年少女だった日の思い出―
裁判編(3)
螺河鳴姫
「うーん…気になっていたんだけど、共犯者が本当にいたとして…
椎名君だけ怪しい状況にするのって、不自然じゃない?
それじゃ共犯の意味がないじゃないか」
物造白兎
栂木椎名
栂木椎名
「全部をしいなに押し付けようとしたんじゃねぇです?」
「ぼくに共犯者がいて嵌められそうなら、とっくに告発しているよ。
共犯者を庇って罪を被るほど、出来た人間じゃないんでね」
「何度でも言うけど、本当に犯行が可能だったのって、ぼくだけだったの?
お泊り会だって、ずーっと皆同じ部屋にいたわけじゃないんでしょ?」
姫宮蝶子
「確かに、お泊り会の途中で何人か出かけましたね…たしか…」
物造白兎
「お泊り会中、飲み物をこぼしてベラとアヴェルが温泉に行ったです。
温泉に売ってる牛乳片手に、ほかほかだったのです」
栂木椎名
芍薬ベラ
アヴェル
アヴェル
「そうそう、しゃがんだ時にテーブルの上のコップが傾いて、
頭からかぶっちゃったのよね」
「一緒にお風呂、楽しかったの~!」
「本当にお風呂に入りにいったの?
2人で口裏を合わせてるって可能性もあるよね」
「失礼ね、ちゃんとお風呂に入りに行ったわよ!
温泉スタッフのモノボウズに聞いてもらってもいいわよ」
螺河鳴姫
「お泊り会の途中で、夜風を浴びに散歩にいったよ。
夜空の写真を撮って…10分くらいで戻ったかな。
途中で誰とも出会わなくて、ずっと1人だったよ」
栂木椎名
螺河鳴姫
「ずっと1人でいたの?それなら事件当時、アリバイがないという
ことだよね。ほら、ぼく以外にもアリバイが無い人がいるんじゃないか」
「10分でコテージに行って人を殺して戻ってくるなんて、時間的に
無理だよ。走ったとしても、そんな短い時間じゃ往復するだけで
精いっぱいじゃないかな」
「この年で全力疾走は、結構きついものがあるかな…
って、そんな悲しいこと言わせないでくれ!」
「なんにでも噛みつきたいお年頃なんだね、椎名くん」
栂木椎名
「必死だよ、きみたちの愚かな妄想を修正するのにね!」
江見菜みいな
大賭清一
「お泊り会中に、飲み物とかお菓子が足りなさそうだったから、
ショップまで買いにいったよ。1人で持つのは大変だから、
ジュースは大賭さんに持ってもらったんだ」
「女の子を夜道に一人買い物行かせるとか、気が引けんじゃん。
他に男手なかったし」
江見菜みいな
「レシートだってちゃんとあるから、寄り道なんてしてる暇ないよ!」
芍薬ベラ
「買ってきてくれたジュース、冷たくて甘くておいしかったの!」
大鳥外神
「お泊り会の途中で離席した人は、鳴姫さん以外は誰かとずっと一緒…
そして鳴姫さんも時間的に無理がある。それならやはりお泊り会に
参加した全員にアリバイがあるということだね…」
栂木椎名
「お、大鳥さんと良田さんだって、ずっと2人でコテージにいたんだろ?
じゃあ、その二人が共犯って可能性も…」
大鳥外神
良田アリス
栂木椎名
「アリスちゃんは工房に行ってたみたいだけど、さすがにこんな小さな
子供が君野君を刺殺して運ぶのは無理だよ…」
「それに、工房の記録に外神君の名前はないでしょ?
椎名君が工房の記録が証拠だって言い出したのにー」
「だ、だとしたらっ…誰がぼくの共犯だっていうんだい?
工房に行ってないぼくには、君野君を殺せない。だから共犯者がいると
いう考えに至ったのだろう?
自分たちが定義した前提を忘れるなんて、ねぇ?」
姫宮蝶子
「工房で殺したという話が、そもそも間違いだったのでしょうか…?
工房にあった靴が君野さんの物だというのも、状況的にそうだと
思うというだけの話ですし…」
アヴェル
「あるいは、工房の記録をこっそり改竄とか…出来るかどうかわからないけど」
大鳥外神
「あの…私はお泊り会に参加してないので、実際の様子はわからないけど…
さっきまでの話を聞いて、ちょっと気になったことがあるんです」
大鳥外神
大鳥外神
「芍薬さん…さっき、江見菜さん達が買ってきたジュースが
冷たくておいしかったと言っていましたが…」
「あの時ショップの冷蔵ショーケースが壊れてたんですよ。
だから飲み物は常温で販売されていたはずです」
☂冷蔵ショーケースの故障
事件当日の昼頃から、ショップの冷蔵ショーケースが故障し、飲料系の売り物は普通の陳列棚に並べられていた。お菓子類も保存が出来ない物があり、お泊り会用に全て売り切れてしまった。追加分は夜にショップに並べられた。
芍薬ベラ
大鳥外神
江見菜みいな
「ほんとに冷たくておいしかったの!ぬるくなかったの!」
「だとすると、どうして冷えていたんでしょうか…?」
「そ、それは…ドライアイスをもらったんだよ。
ぬるいジュースなんて、みんな嫌でしょ?」
大鳥外神
「いいえ、お泊り会の準備のために買い物に行った時、ドライアイスも
切らしていると言っていました」
君野大翔
「足りなくなったら、夜に買い足しに来ようか。
あとはジュースを…あれ、なんだかぬるいね…?」
モノボウズ
「そちらのショーケース、冷蔵機能が少々故障中でして…
ドライアイスも切らしておりまして」
江見菜みいな
大賭清一
「ええと、それは、その…」
「そうそう、ドライアイスを貰おうとして無かったからさ、氷を貰って
袋に入れてたんだよ。製氷機は壊れてなかったからね。
でも、歩いているうちに溶けちゃってさ。最近暑いからねぇ」
栂木椎名
「…さっきから大賭さん、やけに御透さんを庇う発言をしてないかい?」
栂木椎名
「…レインドッグからショップに行く途中には、コテージがあるよね。
もし…そこで二手に分かれたら、片方が買い物している間、
もう片方はコテージに行けるんじゃない?」
栂木椎名
「買い物に行ったのが御透さんなら、ジュースを何本も抱えて歩くのは
相当大変だ…だから、前もって買ったジュースをコテージで冷やして
おいたんじゃないのか?まるで今買ってきたばかりのように見せかけて」
螺河鳴姫
姫宮蝶子
栂木椎名
「けど、それだったらジュースだけじゃなくてお菓子もあらかじめ買って
おいて、二人共コテージに行った方が楽だし確実じゃないかい?」
「いえ、お菓子はお泊り会の準備の時点で売り切れてしまったんです。
だから前もって買うことが出来ず、実際に買いに行くしかなかったん
ですよ」
「それに、レシートを貰っておけば実際にショップに行った証拠になるしね」
栂木椎名
「そして御透さんがショップで買い物をしている間、大賭さんはコテージに
向かい沙梛さんを殺害し、君野君の死体を段ボールから出して
コテージ内に運んだ…」
螺河鳴姫
「そういえば…工房からみいなちゃんが運んでた段ボールの中身を
確認して、死体がないと言ったのも大賭ちゃんだったよね」
大賭清一
「ちょい待った。俺だけじゃなくて、白兎ちゃんにも中身を見せたって
言ったでしょ?ねー、白兎ちゃん」
物造白兎
「あ、はいです…!確かにちゃんと見たです!段ボールの中はガラスの
コップでいっぱいで、死体なんて入る隙間はなかったです!」
良田アリス
物造白兎
「ねーねー白兎ちゃん。段ボールってその1つだけだったの?」
「えっと、台車に積んであるのとか、大賭がもっているのとか、いくつか
あったです。それで大賭が持ってた段ボールを見せてもらって……」
大賭清一
「白兎ちゃんはこんな大人になっちゃだめだよ~??
ま、今はちゃんと働いてるけどね。ほら、綺麗だし見てみなよ」
大賭は自分の持っていた段ボールを1つ開け、屈んで白兎の目線に持っていく。中には色とりどりのグラスが並び、きっちりとそろったなめらかな縁に、細やかな装飾が太陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。
良田アリス
栂木椎名
「それじゃ、台車に乗ってた方の段ボールの中身は見てないんだね」
「実際には自分が持っている方の段ボールだけを他人に見せて、あたかも
第三者も死体がないことを確認したように裁判の場で言う…
っは、君がやってることこそ、印象操作って言うんだよ」
栂木椎名
「つまり…御透さんと大賭さんこそが本当の共犯者なんじゃないのかな?」
大賭清一
「なぁるほど?ふんふん、確かに俺達が怪しいわなぁ。俺だったら怪しむね」
大賭清一
大賭清一
「でもそれってさぁ…俺達が買い物に行った丁度いいタイミングで
沙梛ちゃんがコテージにいるってことが前提だよねぇ」
「お泊り会に来るかもしれないし、来なくてもコテージにいないかも
しれない。いても寝ているかもしれない。もちろん、お泊り会に行ってた
俺達が、沙梛ちゃんがどこで何してるかなんて、分かるわけがない」
大賭清一
大賭清一
「着替えを用意してコテージでシャワーを浴びるような計画犯が、
いるかいないか分からない相手を殺しに行くなんて…おかしくない?」
「その点、コテージにずっと残ってた栂木君なら、沙梛ちゃんがコテージに
いたかどうか分かるよね?なんたって隣のコテージなんだから、
タイミングなんていつでも狙えただろうよ。工房の記録だって、
本当かどうか怪しいし」
芍薬ベラ
「うーん…不思議なの…沙梛ちゃんなんでお泊り会に来なかったの?
秘密の手紙のせいで、来にくかったなのー…?」
アヴェル
「確かに、彼女の正体を思えば1人でいれば狙われる可能性があるわ。
多人数でいた方が安全だと思うのに…」
螺河鳴姫
「あのお泊り会って招待状が皆に配られて、レインドッグに行ったんだよね」
☂招待状
お泊り会の案内が書かれた招待状。大賭清一が作成し、姫宮蝶子が各コテージに配った。デザインセンスが終わっている。
物造白兎
「ああ、あのデザインセンスが終わってる招待状!
大賭が作りやがったやつです!」
大賭清一
姫宮蝶子
「ほっとけ」
「あれは責任をもって私が皆さまにお配りしました。
お泊り会のことを知らなかった…というのはないでしょう」
良田アリス
「ん~………ねぇねぇ蝶子ちゃん。百合籠ちゃんにお手紙渡すとき、
直接お泊り会がある~って教えてあげたの?」
姫宮蝶子
「…いいえ、タイミングがずれてお会いできなかったので、ポストに
入れておきました。しかしその後、手紙の中身を読んでいた姿は
見ましたよ」
「それなら、招待状を見ていただけで、読んだかは分からないね」
姫宮蝶子
「…?どちらも同じことでは?」
良田アリス
「あの招待状ってかなり独特の色合いをしてたけど…
あれ、沙梛ちゃんには読めなかったんだよ」
物造白兎
「確かにあの招待状のデザインは終わってたけど、読めないってほどじゃ
ねぇです。文字が読めないわけじゃあるめぇし」
良田アリス
「沙梛ちゃんの秘密の手紙、覚えている?皆の前で公開されたやつだよ」
『沙梛百合籠は、本当は小学生ではなく【超高校級の標本士】だ。その才は本物だが、実は【色盲】で色の判別が出来ない不完全な才能でもある』
良田アリス
大鳥外神
良田アリス
「あの時は、本当は高校生だってことに注目してたけど、もう一つの秘密…
沙梛ちゃんは色がわからなかったんだよ」
「色が分からないと言っても、文字は読めるのでしょう?
だったら、招待状も読めたのでは…」
「ううん。色の区別がつかないとね、淡い色が全部同じ灰色に見えるの。
この手紙…沙梛ちゃんの目には、こう映っていたはずだよ」
大鳥外神
「つまり…沙梛さんにとってこの手紙は、お泊り会の招待ではなく、
夜のコテージで待つように出された指示書だった…というわけだね」
良田アリス
「で、だよ。この手紙…書いたの、清一君だよね。百合籠ちゃんを
コテージにいさせるために、最初から計画して作ったんだね」
良田アリス
「みいなちゃんと組んで、百合籠ちゃんを殺すために」
BREAK!!
▼クライマックス推理
この事件は、工房にて江見菜みいなが君野大翔を刺殺したところから始まる。
秘密を暴露され、精神的に不安定になっていたみいなは、介抱してくれた君野大翔に依存し、一方的な執着の果てに感情が爆発し、刺し殺してしまった。
そこに通りかかったのが大賭清一だ。大賭は落とし主である沙梛百合籠から、アンプルのことや島から出る方法を聞き出す事を計画していた。
事前にモノボウズに共犯について聞いていた大賭は、君野の殺害を利用し沙梛を殺害する計画を立てた。
みいなは工房のシャワーに入り、血の付いた衣類を焼却処分し、作業着に着替える。その間に大賭は部屋の清掃をして、自分もずっと一緒にいたように見せるため作業着に着替えた。
そして君野の死体を段ボールに詰め、堂々と工房から運び出した。
同時にお泊り会のことを聞き、沙梛だけをコテージに残すことは出来ないか考えた。
沙梛が色盲であることを利用し、招待状をわざと見えにくいようにして、夜にコテージで待つように指示したのだ。
お泊り会の最中に二人で買い物に行くと言って外出し、みいなはショップに買い物に行き、大賭はコテージに向かう。そして沙梛を拷問の末に殺害し、君野の死体も中に置いて、殺害現場が沙梛のコテージであるように見せかけた。
後は裁判で互いのアリバイを主張し、アリバイが弱い人物に罪を擦り付け犯人に仕立て上げる…はずだった。