chapter4-不安と無音と懐疑心-
chapter4-不安と無音と懐疑心-(非)日常編
モノエル
「ふんぬー」
モノエルは格闘していた。ジャムの瓶が開かず、かれこれ5分程瓶にしがみ付いていた。
モノエル
「うぬぬぬぬぬぬ…ああ、誰か助けてくれましぇんかねぇ。
ほらそこの、事件のせいで髪切り落とした遠雷しゃまとか!
遠雷紬
「…………(無視している)」
モノエル
「世は無常」
いくら力を込めど、小さいモノエルに瓶の蓋は心開かず。
がっくしと肩を落とすモノエルはハサミを取り出す。
紅緑茶
「…ハサミで瓶はあかないと思うが」
モノエル
「ふっふっふ、なめてもらっちゃ困りましゅね。
これはエル達開発のなんでも切れるハサミ、キレスギールでしゅ!」
モノエル
「エルみたいに小さな体でも、お年寄りみたいに力の弱い人でも、
ちょっと力を加えたらガラスだろうと金属だろうとすっぱり両断!
…っあー!ジャムがぁー!!!」
何の茶番だ。定例の朝のお茶会をしながらモノエルに注がれる視線は冷たい。
モノエル
「もー!かわいいエルが苦労してるのに、見向きもしないなんて…
皆しゃま元気ないでしゅね」
しいたけみたいなふざけた眼を半分落として、じとりとモノエルはジャムを拭いながら見上げてきた。
お茶会広間に座る者達は減ったというのに、席は残ったままでまばらな空白に居心地の悪さを感じる。
誰に言うでもなく、しかしその場にいる全員にモノエルは言う。
モノエル
「才能ある人って、もっとギラギラガッツがあると思うでしゅけどね。
立て続けに【参加者が独断で勝手に】人殺しをしてしまったから、
お通夜っぽいのも仕方ないでちが」
モノエル
「だいたい、自分だろうと他人だろうと応募してここに来ることに
同意したのは、皆しゃまご自身でしゅよ?
それなのになんなんでしゅか、この体たらくは!」
つまらない退屈だ、と言わんばかりにモノエルは寝そべり始める。
足をぱたぱたとさせ、ついでに羽もぱたぱたとさせる。
コップは特注で小さい癖に、食べるお菓子は人間サイズで目の前に摘まれたクッキーをぼりぼりと貪っていた。
モノエル
「ここまで生き残ってきたんでしゅから、きっちり才能を取り戻して
ほしいんでしゅけど…そんなに帰りたいなら、帰っていいでしゅよ」
糸色恋花
「…え…?帰っていいって……なにそれ、なんで今更…」
モノエル
「実は黙ってたんでしゅけど、参加者の中に一人エルの部下を
入れといたんでしゅよね。より身近で皆しゃまをサポートできるように…
覆面調査員みたいな感じで」
モノエル
「あえて言うなら、皆しゃまにとっての裏切り者でしゅね!」
にこり、とモノエルは笑った。
裏切り、その言葉が今現在に置いて、どれだけ自分たちの心に疑心を生み出すか分かったうえで、
こいつは言っている。
ずっと自分たちの中に、こいつの仲間が、自分たちを貶めようとした輩が紛れ込んでいた事実を
唐突に告げておいて、こいつは嗤っている。
モノエル
「エルだってさすがに一人ですべてこなしているわけじゃありましぇん。
部下と協力しながらやってまちたが…もし部下に何かトラブルがあったら、
才能を復興どころじゃありましぇん」
モノエル
「そしたらこの生活も続けられず、皆しゃまを丁重にお家まで
お見送りさせていただきましゅ」
花柳玲子
「…それって、自分の部下をどうにかできたら、帰してくれるてこと?
部下を売っているようなもんじゃない」
モノエル
「どうとでも好きにとらえてくだしゃい。
捉え方によって世界は変わるものでしゅよ」
コップの中で丸く揺れる紅茶の水面に、歪つに逆さの影が映る。
言葉に表情を歪ませたのはモノエルか自分なのか。
裏切者。
その言葉が心に重くのしかかり、隣やはす向かいの席の顔がまともに見られなくなりそうだ。
モノエル
「それはそれとして、エルが困ってたらジャムの瓶くらい開けてくだしゃい」