chapter6-KASU-TURD-
chapter6-KASU-TURD-非日常編
死者が見える。異常な現象もしばらく続いてしまえば日常になってしまう。
慣れとは恐ろしい防衛本能である。
最近は誰も来ないお茶会広間で、今日も今日とて小さな白黒人形は紅茶を淹れていた。
ぺらり、とめくった書類にはここ数日の参加者との対談がまとめられていた…。
▼MONO-EL FILE:A「毒桃京知」
毒桃京知
『あたし達って何?幽霊?』
モノエル
「奇跡、でしゅよ。本来死んだはずの人が見えるこれは、
主が与えてくれた希望でしゅ」
毒桃京知
モノエル
『そういうふわっとした答えじゃなくて…あたしは何なの?
どうしてあたしはここにいるの?』
「………そもそも、幽霊とはどういうものを言ってましゅ?
死んだ人の魂?霊感があれば認知できる存在?
…どちらにせよ、大事なのは『生きている人の認知』でしゅよ」
毒桃京知
『どういうこと…?』
モノエル
「人の魂だろうが正体が枯れ尾花だろうが、そこにいると認識すれば
『いる』し、認識しなければ『いない』。エルは今、毒桃京知を
認識しているから、毒桃京知は今ここにいる、という話でしゅ」
モノエル
「世俗的に幽霊や天使はいないものでしゅ。
しかし紅茶と香を摂取することで、エル達はそれを『認識出来る』ように
なるのでしゅ。長い年月をかけて作り上げたおかげで、今までも
時折天使しゃまを見ることができるようになったでち」
モノエル
「君達の存在は、エル達の認識によって成り立っている。
君の言動のすべてが、生きている人間の認識によって成り立っている、
とも言えましゅね」
毒桃京知
『………あたしは、あたしよ…この感情も、言葉も……あたしよね…?』
モノエル
「毒桃京知は死にまちた。死体は何も考えましぇんよ」
―――音声・動画データにはモノエルが独り言を言っている姿しか残っていなかった。
▼MONO-EL FILE:B「花柳玲子」
花柳玲子
「天使……って、結局なんだったのかしらぁ」
モノエル
「天使しゃまはエル達カスタード教会を見守ってくださる存在でしゅよ。
はるか昔から時折現れて、エル達を見守って下さる素晴らしいお方でしゅ。
主への信仰が足りない教会の外の人間には、天使しゃまが見えないよう
でしゅね。嘆かわしいことでち」
モノエル
「今回は参加者の中に急に現れて、さすがにびっくりしまちたけどね。
お部屋もあわてて用意したから、他の参加者と同じ部屋になって
しまいまちた…」
モノエル
「天使しゃまは汚れた地上の物を直接触れないから、ちびエル達が
お手伝いをして…あとは秘密の部屋を見せてほしい、とお願いされたから
鍵は開けまちた。天使しゃまにお願いされたら断れましぇんからね」
花柳玲子
「………そこまで厚遇しておいて、結局のところ幻覚で、
実在の人間じゃあなかった……って?」
モノエル
「天使しゃまを人間同様に扱うなんて、失礼でしゅよ。決して手が届かない、
生と死に無縁の永遠の存在。紅茶を飲んだ時だけに見えるあの方が、
人間なんかであるわけがない」
花柳玲子
「ふぅん……にしても天使様天使様ってご熱心なこと。
そんなに大切な存在ならあの人の言う通りコロシアイなんて
とっとと中止すべきだったんじゃなあい?」
モノエル
「天使様がコロシアイをやめるよう言ったのは、我々への試練でしゅよ。
甘言を乗り越えて達成してみせよ、という意志なのでしゅ!
エル達にはわかりましゅ。それだけは涙を飲んでお断りしまちた…
うう、断腸の思いでち」
花柳玲子
「はあ?…………あーあ……あんたと話してると頭痛くなってくるわぁ。
二日酔いよりタチ悪い」
モノエル
「実は紅緑茶は生きている人間で、天使なんて嘘で一緒に過ごした日々が
真実だとでも?それこそ妄想でしゅよ」
▼MONO-EL FILE:C「心条裁己」
心条裁己
「俺を殺さないのか?」
モノエル
「殺す?どうちて?」
心条裁己
「俺は、お前たちにとって『裏切り者』だろ。簡単にやられるつもりも
ないが……粛清の一つや二つ、覚悟してたんだがな」
モノエル
「まだコロシアイは続いていましゅ。コロシアイの最中は、オシオキ以外で
エル達が参加者に手出しすることはありましぇん。オシオキ対象だって、
参加者に選ばせるから意味がありましゅしね」
心条裁己
「……随分大きな組織なんだな。そうやって、権力で今までの事件も
もみ消してきたのか?コロシアイだって、もう何人も犠牲になってる
だろ。……今は火消しで大変なようだが」
モノエル
「集団誘拐事件、なんて世間も酷いことを言いましゅよね。
彼らは選ばれただけなのに。まったく、そっちの対応で施設内での
お仕事がおろそかになって大変なんでちよ、むきー!」
心条裁己
「……。
……姉さんは……前の殺し合いに参加した俺の姉さんは、どうなったんだ」
モノエル
「神の元へ逝きまちたよ。皆しゃまのメンタルケアに勤しんでおられ
まちた。…まぁ、そのコロシアイも『無意味』に終わったから、
意味のない犠牲でちたけど」
心条裁己
モノエル
「!!!……そう、か……そうか……。……お前がロボットなのが、
こんなにも恨めしいと思う日が来るとはな……!」
「実はエルがロボットってさらっとネタバレやめてくれましぇん?
え、知ってた?あっそう」
▼MONO-EL FILE:D「???」
モノエル
「ふぅ、ここまで来たらもう誰もコロシアイを続けなさそうでしゅよねぇ…
ふむ。どうしましゅ?」
モノエル
「そのうち公安の仲間がやってきて、しょっぴかれるでしゅよ。うむむ…」
モノエル
「…そうでち!」
モノエル
「コロシアイが起きなくても、裁判を開くでしゅ!
裁判で『黒幕』を…君の正体を明らかにさせるでしゅ」
モノエル
「そうしたら皆しゃまきっと頑張って捜索するでしゅ。
そうしたら他の事への目がおろそかになる。
それが出来れば充分、我らの【お役目】も果たせるというものでしゅ」
モノエル
<…あーあーまいくてす、まいくてす>
モノエル
<死体も見つかっていないけど、これより裁判に向けての捜査タイムに
入るでしゅ~。裁判にかけられるのは黒幕。皆しゃまには黒幕を
探していただきましゅ>
モノエル
<黒幕を見つければコロシアイはおしまい、簡単な裁判でしゅ。
幽霊的な皆しゃまにもちびエルが同行するので、彼らに指示して
一緒に探索をしてくだしゃい>
モノエル
<それでは、皆しゃまのご活躍を期待してましゅよ~>
モノエル
「…ふぅ、これでアナウンスはおっけーでち。忙しくなりましゅねぇ」
モノエル
「………ふむ、そうなんでちか?まぁ、誰にどんな想いを向けようと、
エルと君のやることは変わりましぇん」
モノエル
「たとえ天使という見えない存在に一方的に語り掛ける集団と言われようと。
自分の知識を元に幻覚を作り上げて、その幻覚が自分の秘密を知ってると
独り芝居で騒ごうと」
モノエル
「信じ切れば、自分にしか見えなくても希望になる。
それこそが信仰でしゅ。信じる者は救われる。
信じないものは惨めに救われない、でしゅ」