Prologue
Prologue-カスタード協会-前編
才能。それは生まれ持った特別な能力、人生を彩る素敵な天からの贈り物。
超高校級。すなわち才能を得た彼らも、またこの世に生まれた世界からの祝福の形。
若く初々しい芽はやがて花開かせ、世界を彩り未来を拓く。
約束された希望に邁進する若人のなんと美しいことか。
しかしその芽が全て芽吹くことはなく、日陰でしおれた哀れな子がいるのもまた事実。
けれど大丈夫。
かつて才能があなたをもう一度満たしましょう。
才能を宿していた空っぽの身体に、その才を再び巡らせましょう。
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貴方はかつて、その才能で活躍した【元】超高校級。
理由は色々あるけれど、世間にとって貴方は過去の人になり果て、その輝きは誰にも
見られることはなくなった…。
そんな貴方の元へ一通の案内が届く。
元超高校級様へ。
厳選なる査定の結果、今期の支援対象に貴方様が選ばれました。
才能に再び輝きを取り戻し、その力を存分に発揮して頂きたい。
我々教会はそのための支援を惜しみません。
貴方様の快い返事をお待ちしております。
【才能復興支援団体カスタード協会】
貴方が参加したと思ったのか、誰かが勝手に応募したのか、はたまた何かの手違いか。
貴方はカスタード協会へと赴くことになったのであった。
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某月某日某所にて。
あなたはカスタード協会の迎えを待っていた。
元超高校級であるあなたは、理由はいろいろあれど協会へ参加申請を送り本日を迎える。
協会にしばらく滞在することになるそうだが、生活用品・娯楽品などある程度そろっているらしく荷物は不要と伝えられた。
旅行よりずいぶんと軽い荷物で迎えを待てば、指定された時間ちょうどに迎えはやってきた。
テレビなどでよく見る高級そうな車に、ぴしりとスーツを着込んだ運転手があなたのためにドアを開ける。
やわらかなクッションの座席に座れば、ほどよい空調にドリンクまで用意されていた。
ほんのりと漂う香りはなんの香料なのか、少しばかり気がはった身体を緩めてくれる。
世間から忘れられた「元」のつく自分達にこんな手厚いサービスが待ち受けているとは。
これならば協会での滞在も有意義なものになるかもしれない。かすかな期待を抱いていると、緊張のゆるみだろうか、
あなたはうつらうつらと瞼が重たくなるのを感じる。抗いようのないまどろみの心地よさに、目を瞑らずにいられない。
しばし夢の世界をまたいだあと、運転手に声をかけられ目を覚ませば目的地であった。
どのくらい走っていたのだろうか、太陽の位置が記憶よりそこそこずれている。
到着したのは城のようなホテルだった。ステンドグラスに天使の像、中庭には噴水と何かのテーマパークのような
出で立ちの廊下を案内される。わずかに持ってきた荷物をフロントへ預けると、案内役はあなたへ言った。
「この後、才能復興支援団体会長から皆様へのご挨拶があります。あちらのお部屋でお待ちください」
ひときわ大きな扉を示され、あなたはその扉を開く。
カーペットの敷かれた床に、白く長いテーブルが中央にかまえていた。
あなたと同じく超高校級の同志たちが幾名か座り、卓上の紅茶や菓子をつまんでいる。
あなたも同様に適当な席に座った―――。
茶渡利三沙
「いやはや、中々の待遇じゃないか。悪くないね」
面屋敷浪漫
「どうも。私もお紅茶、いただきますね♪」
緑紅茶
「…悪くない紅茶だ」
黒羽麗
「うへーこのお菓子とか超高そ〜……えっ食べていいの?マ!?」
夜見塚灰慈
「…。(静かに紅茶を飲んでいる)」
ユウヒ
「わぁほんとに選り取りみどりだな〜っ」
踊瀬舞円華
「ふふ、いただきます。
リリー
「あらすごいわぁ~こんな綺麗な所なんねんぶりかしらぁ。ふふっ」
描成絵智
「わー、すごくたくさんいるんですね〜!」
琴ノ緒閑寂
「……なんでこんな好待遇なんだ?」
しばしの時間をお茶とお菓子で満たす参加者たちの会話は、扉の音で途切れた。
音と共に視界に飛び込んできた影を反射的に目で追うと、それは頭上を一周くるりと飛び回った後、
机に上にふわりと降り立った。
それは肩に乗るほどの小さなぬいぐるみのような外見の何かであった。
半分は白く半分は黒く、背中に生えた羽はどういう原理か身体をふわりと浮かせている。
天使と悪魔、まさしくそんな言葉が似あう羽をもったそれは、あなたたちを見渡した。
モノエル
「皆しゃまこんにちは。カスタード協会が運営する、才能復興支援団体会長の【モノエル】といいましゅ。以後、おみしりおきを」
ぺこりと丁寧に頭をさげたモノエルは卓上をまわりながら、自分を見下ろす元超高校級達を順に見上げる。
心条裁己
「おやおや、かわいらしいですね」
滑川ぐみ
「……着ぐるみじゃないのはわかるぞ、小型化の限界を超えてるからな」
エリアス
「……コウモリ?(眼鏡を上げながら凝視)…仰ることは分かりました」
フェイ
「しかし実に愛らしい 流石はアニメの国日本だ」
モノエル
「皆しゃまの希望ある未来を願って、我々カスタード協会は全力で支援しましゅ。 まずはここでの生活に慣れてもらうために、しばらく好きに暮らしてくだしゃい。必要なものがあれば用意するでしゅ」
モノエル
「あ、でも外出は禁止でしゅ。あくまで娯楽施設じゃなくて、才能復興のための
生活なんでしゅから、ルールは守ってもらうでしゅ!」
カレブ
「集団生活の上でルールを守るのは当然の事だな。しかし、ふむ」
毒桃京知
「えーお出かけできないの?ぶーぶー」
糸色恋花
「必要ないくらいには整ってるってことかしら……」
モノエル
「さて、堅苦しい挨拶はこのくらいにして…こほん。
皆しゃま22名と出会えたことを、エルは嬉しく思いましゅ!
これからよろしくおねがいしま―――」
モノエルが締めの挨拶に入ろうとした時、入口の方からガチャリと音がした。
すでに22回音を鳴らした扉の向こうには、見慣れぬ女性が一人立っていた。
花柳玲子
「ふぁ〜……(あくびをし手を口に) ……部屋ってここでいいのかしらぁ?」
比与森閑古
「あれー?まだ参加者の人いたの?遅刻?飛び入り参加?」
モノエル
「んもー!遅刻するにしたって限度があるのでしゅ!ほら席に座って…」
モノエル
「……あれ?あれあれあれ?ひーふーみー…」
怒っているつもりなのか、地団太をぺちぺちと踏んだモノエルは空席を指さそうとした。
しかしどこの席も空いてないことに気づくと、首を傾げる。
首を傾げたかと思うと、指のない手を何度も振りかざし再度数を数えるも先ほどと変わらない。すると今度は顔を赤くしてぷるぷると震えはじめる。
モノエル
「参加者の数を間違えてたでしゅ!!
ご用意したお部屋が足りないのでしゅ!!!」
遠雷紬
天城飴梨
赤音問
メアリー
「…?(困惑した表情で様子を見て)」
「うるせぇぬいぐるみ…(モノエルをまじまじと見ている)」
「あははポンコツやな〜」
「うふふ、誰にでも間違いはありますものね。」
慌てて空へ飛び立ったかと思うと、短い手をぽふぽふと鳴らす。
するとどこからともなく、ひとまわり小さな白単色と黒単色のモノエルが飛んできた。
モノエル
「ちびエル達、すぐにもう一つお部屋を用意するでしゅ!大切な才能たちを野ざらしにする気でしゅか?急ぐでしゅ!!!」
モノエルの号令と共に部屋の外に飛び出していった小さなちびエル達を見送り、
肩で息をしながら降りてきたモノエルは、深く息を吸う。
モノエル
「お見苦しいとこをお見せしたでしゅ…こちらの手違いで、お部屋が
足りなくて急いで用意させてるでしゅ。それまで皆しゃん、ここで
ゆっくりくつろいでくだしゃい」