chapter5-アー・ユー・レディ?-
chapter5-アー・ユー・レディ?-(非)日常編
平穏無事とは言えない日々、現れた裏切り者にざわつく心を持て余す。
そんな中、彼女は言った。
花柳玲子
「見張りましょっか、そのヒト」
にこり、とほほ笑んだ花柳の指はぴしりと心条に向けられた。
花柳玲子
「モノエルの仲間だって分かったうえで一人で行動させるのって
ちょっと……ねえ?」
花柳玲子
「何かをするなら誰かが付きそうようにして、勝手な行動は
とらないようにって。そのほうがお互いのためじゃないかって
思うのよねぇ」
モノエル
「うーーーん…部下を雑に扱われるのはちょっとばかり心が痛み魔手が…
まぁこれも自主性でしゅね!がんば、心条裁己!」
花柳玲子
「あんたの意見は最初から求めてないわぁ」
心条裁己
「監視付き生活ですか、ははは。図書館に行くのも苦労しそうですね」
紅緑茶
「…女子供の場合は二人きりは避けた方がいいかもな」
糸色恋花
「女子供の方が圧倒的に少ないわ」
あっさりと降りた許可は、なんの心の現れか。
見張りくらいどうとでもなると思っているのか、見張りが更なる事件になるとでも思っているのか?
残ったメンツで当番表を作り、日中は誰かしらはそばに起き、夜間は部屋から出られないよう
小窓と外鍵が設置された。
花柳玲子
「これで何も起きない……とも思えないけれど、何かしてないと
後悔しそうでね」
連日の疲労を隠した声は、先行きの不安を示しているようだった。
それは交代で心条を見張って数日たった、ある日の夜。
人は毎夜、夢を渡る。記憶の整理や感情の反芻である夢は、大抵の場合あまりよろしくないものだ。
この施設に生き残った者にとっても、決して夢は優しいものではなかった。
瞼の裏の暗闇に、いなくなった彼らが見えてくるような気がするから。
そうして夢から逃げるように、遠雷紬はふらりと夜の廊下を歩く。
廊下に点在する照明替わりのアロマの火が、通り過ぎるたびにちろりと揺れて手招きをしているように見える。
リラックスするためと焚かれた香は眠気を誘い、うすぼんやりと向こう側を照らすのが
より不気味に見えて仕方がない。
その向こう側にひとつ、人影を見た。
遠雷紬
「………誰?」
それは見たことのない男だった。
目深に被ったローブで顔ははっきりと見えない彼は、こちらを振り返ることなく暗闇に溶けていった。
そのローブの裾が、赤く染まっていた事に気づいた時には、ふわりと彼はどこかへ行ってしまっていた。
待ってと声をかけるのも、追いかけるのも一瞬ためらってしまった。
これ以上、何をしたところで、という少女の疲れた心がそうさせたのかもしれない。
モノエル
「見知らぬ男、でしゅか?」
遠雷紬
「……知らない。見たことない」
次の朝、遠雷はお茶会広間にて昨夜の出来事を話した。
他にもその男を見かけたものがいれば、と声をかけるも、誰もそれに同意するものはいない。
一夜のみ現れた謎の男の存在は、ざわりと警戒心に波を立てた。
リリー
「………怖いわねぇ…」
比与森『知らない人……?外から入ってきたってこと?』
毒桃『ええ…なにそれ、ここにきて部外者…?』
茶渡利三沙
「何者か、侵入してきたのかい?物騒だねえ」
黒羽麗
「ひえー怖……なんかの怪談でありそうじゃんそういうの」
糸色恋花
「ゆ、ゆゆゆ………幽霊は…さ流石に…………流石に………………」
遠雷紬
「…幽霊じゃ………、いや、でも……」
ユウヒ
「幽霊であってほしいですけどね〜」
糸色恋花
「虫と……オカルトは……、………幽霊でも人間でも怖いわね………………」
「でも幽霊だったらちょっと会ってみたかった気もするな〜!
お化けとお話できたら楽しそうだし!」
黒羽麗
滑川『ここにいるけどな』
メアリー『幽霊、ここで見てますねぇ』
フェイ『大丈夫だろうか…』
しかしモノエルは興味がない…というより、それでころではないと言った様子でせわしなく飛んでいた。
モノエル
「遠雷しゃまの夢でも妄想でもどうでもいいでしゅけど、
こっちは忙しいんでしゅよね」
花柳玲子
「何か忙しそうねぇ、トラブルかしら?」
モノエル
「そうなんでしゅねー。ちょっとばかし忙しくて、ちびエル達も出払ってて…皆しゃまのご飯とか掃除とか洗濯とか、手がまわらないんでしゅよ」
モノエル
「というわけで。しばらくの間、家事炊事を皆しゃま達でしていただくよう、
お願いしましゅ!いうて高校生以上、それくらい出来ましゅよね?」
糸色恋花
「………人 こんなに少ないのに………?」
リリー
「別に自分のことをやるのは良いのだけれど面倒くさいわ~ふぁ……」
遠雷紬
「……頼らなくてもやるし」
モノエル
「謎の男にかまけるのもいいけど、まず自分たちの生活のため動くでち。
最低限のちびエルはいるので、どうしようもない時は声をかけるでちー!」
最後は半分言い捨てるように飛び去って行き、悩みの種が増えた現状に頭を抱える。
黒羽麗
「部屋とかヤバくなってきたらうるが掃除しに行ったげる〜」
紅緑茶
「料理ならかまわんが…女子の洗濯物なんかは、ちょっと」
糸色恋花
「家事一通りは出来るけど……洗濯は男女別れた方がいいわね」
花柳玲子
「……とりあえず、当番制にしましょっか。洗濯とか料理とかゴミ出しとか」