chapter2-番子の墓に呼子鳥-
chapter2-番子の墓に呼子鳥-裁判後編
フェイ
「………………………………そうか…」
糸色恋花
「……たくさん痛い思いして、それだけじゃなくて…」
花柳玲子
描成絵智
黒羽麗
「…きっと痛かった。つらかったわねぇ」
「……ご……ごめ、ん、なさ………」
「……謝るぐらいなら殺すなよ、バカ」
リリー
「……飴梨ちゃんもかわいそー………利用されて良いような子じゃないのに~~」
モノエル
モノエル
「さぁさ容疑者も絞れたところで投票のお時間でしゅ」
「クロだと思わしき人物に投票し、見事それが当たれば皆しゃまの勝利。
もしクロを間違えれば、真犯人の勝利。
皆しゃまの清き一票で明日が決まるでしゅよ」
モノエル
「票を待ってる間、暇でしゅしお二人の詳しいことでも教えましゅかねぇ」
モノエル
「そもそも器じゃないんでしゅね、お二人とも。
前のクロみたいに、軍を半壊させたとかの過去もないし、
元になった理由も、まぁ…しょーもないでしゅね」
琴ノ緒閑寂
「は?必要ねーだろ、さっさと殺せよ」
描成絵智
「い、言わないで…っそんなの自分が一番よくわかってる!!」
モノエル
「そこの口の悪いピアニストは事故で両腕ばいばいして、
ピアノが弾けなくなったから。至ってシンプルでしゅが…
うう、お可哀そうに。ピアニストが腕をなくすなんて最も辛いことなのに、
ピアノを奪われてどれだけ辛かったか…ああ、お可哀そうに!」
琴ノ緒閑寂
「っ、……うるせーな!無駄口叩いてんじゃねーよ!
そういうのが一番ムカつくんだよ……!」
モノエル
「で、そっちのネガティブハーフ上着の方は…もっともっとシンプルでしゅ。
単に彼の絵柄のブームが去ったからでしゅ!飽和するプロとアマの
クオリティの波に埋もれて、更に相応しい人が出てきた。
それだけの、今や無名のお絵かき好きの小僧でしゅね」
描成絵智
「………ぅ……」
モノエル
「でもまぁ、ドキュメンタリーにするにはうっすいレベルでしゅね。
無慈悲に軍人に殺された少女、って方が旨味がありましゅ」
モノエル
「投票の結果はなんと2人も!
比与森閑古を殺害した元超高校級のピアニスト、琴ノ緒閑寂しゃま!
そして滑川ぐみ、天城飴梨を殺害した元超高校級のイラストレーター、
描成絵智しゃまとなりました!」
モノエル
モノエル
「ドッキドキの結果は………」
「どっちも大正解でしゅ~~!
そう、この2人ばらばらに事件を同時刻に起こして、2人ともが天城しゃまに
罪を被せようとしたでしゅ!怖いでしゅぅ、利用できそうなものは
何でも利用する汚い大人の権化でしゅ~」
モノエル
「描成しゃまは腕をちょっと怪我しただけで激凹み、恥ずかしくないでちか?
琴ノ緒しゃまなんて腕ないんでしゅよ??なんでしゅかその半分の上着」
描成絵智
「だ、って…っそん、な……」
琴ノ緒閑寂
「……あーあ、クソ」
糸色恋花
「人を殺して、ルールでも………あれこれ喋っていいわけじゃない…でしょ。
………アンタみたいなのが一番胸糞悪い」
フェイ
「……………………………………… ………」
描成絵智
「………は、はは……馬鹿みたいだな…こんな、ずっと必死で…
…人までこ、ころして・・・…」
ユウヒ
「御二方とも事実上腕が無いんですね〜。腕組みとかできます?」
琴ノ緒閑寂
「お前みたいな反応の人間ばっかだったらもっと楽しく生きていけたのによ」
ユウヒ
「同情されると腹立ちますよね〜わかりますぅ」
夜見塚灰慈
メアリー
リリー
「……言ってましたねぇ、腫れ物扱いは好きじゃないって」
「【可哀想】……あぁ…ふふふっ…………なるほど~納得しましたぁ」
「………同情か。」
琴ノ緒閑寂
「もう我慢できなかった。いつかやると思ってた。
かわいそうな被害者で終わるよりはクソみたいなくだらねー人殺しで
終わる方が百万倍マシだ」
琴ノ緒閑寂
「俺はまた成功したのに、自力で成功したのに、どいつもこいつも
過去を引きずりやがる……!」
心条裁己
「しかし、それが殺していい理由にはならない。
自身の価値を自ら落としたんですよ。……分からないんですか?」
茶渡利三沙
「……(静かに口元を押さえ)」
琴ノ緒閑寂
「あーあ、……」
描成絵智
「僕自分のことで精一杯なんですよ、優しさも同情もいらない、
評価されればそれでよかったんだ」
夜見塚灰慈
「…精一杯だよな、常に。」
エリアス
フェイ
「……評価が…全てだったのですか」
「私は君の絵に…そして君に 期待していたのだが …上手く伝えられずすまない」
描成絵智
描成絵智
「忘れられなければそれでいいよ」
「ただでさえもう忘れられてるのに、腕まで使えなくなってどうやって
また頑張れって言うんですか?今までずっと頑張って、
努力して必死になって、それでも何も戻ってこない……」
描成絵智
「みんなそうやってどんどん目移りして忘れていくんですよ」
心条裁己
「そんなことはない、ないんですよ。描成さん……」
遠雷紬
「………[絵をかいてくれました。ぜったいに わすれません]」
糸色恋花
「描成さんの気持ちは、痛いほど分かる。だから共感はするわ。
………けど、同情はしない」
描成絵智
「……ねぇフェイさん」
フェイ
「……なんだろうか?」
描成絵智
「言った通りだったでしょ、僕は優しい人間なんかじゃないんです。ごめん」
フェイ
描成絵智
「ならば今君は最低だったと 言われたいのかい……?」
「……もうわかんないや」
モノエル
「ふわぁ…もーそろそろいいでしゅか?いいでしゅよね?
これ以上絞ってももう何も出ないでしゅよ」
モノエル
「きったねぇ2人はとっとと処分するに限るでしゅ。
これで事件を完全に隠し通せたら拍手喝采ものなんでちたが…残念残念」
モノエル
「それではそれでは、
レッツカスタード、オシオキターイム!!」
人の命が絶たれる瞬間を、見世物のように晒される光景に慣れはしない。
人の命を奪った代償は重くあるべきだが、こうである必要は本当にあるのだろうか?
モノエル
「はー2本連続は翼が折れましゅねぇ。
でもこれですっきり、また穏やかな日常が送れましゅね!」
モノエル
「エルは皆しゃまの才能を支えるべく、自分の才能を披露してほしかった
だけなのに…どうしてこうなってしまうのやら」
モノエル
「皆しゃまは、良識ある人でしゅよね?エル、期待してるでしゅ~」
夜見塚灰慈
「本当に、翼を折ってあげようか?」
花柳玲子
ユウヒ
リリー
「……構うだけ無駄よぉ、夜見塚さん」
「良識がないやつに良識を持てって言われたくねぇな」
「良識とかよくわかんなぁい。」
モノエルの声は相も変わらず軽やかに健やかで、傾けたカップから紅茶の湯気が立ち上る。
このわずかな間に5人もの人が死んだ。
明日は我が身か、隣人は本当に良き隣人なのか。
どろり、爛れそうな感情が腹の底へゆっくり沈んでいった…―――。
遺品「無名のスケッチブック」
殆どまっさらのスケッチブック。
わずかに歪な線が引かれているが、なんの形も意味も成していない。
遺品「古びた義手」
使い込まれた年季の入った義手。
プライドを覆い隠すための皮膚も、いまはどろどろに溶けて焦げ付いている。