chapter3- 高き月見し夜想曲、
赤色讃美歌に口付けを-
chapter3-高き月見し夜想曲、
赤色讃美歌に口付けを-(非)日常編
その日は、何かが変だった。
ただでさえ異常なこの施設の中で、いつもよりマシマシで可笑しかったのだ。
例えば、いつもは紅茶をすするモノエルが、やけに慌ただしく空を飛び回っている、とか。
モノエル
「大変でしゅ大変でしゅ!えーとえーと、ベッドは足りましゅかね?
お茶会ができなかったら、血管から紅茶を呑ませるでしゅ!!」
どうにも穏やかでない独り言を、大声で喚きながら飛び回る白黒の影を見上げる。
また何かやらかしたのか、と頭を抱えそうになる中、異変は別方向から忍び寄ってきた。
エリアス
「……ふふ、…美しい…」
踊瀬舞円華
「……(ぼんやり)」
花柳玲子
「落ち着いてほしいわ…、あまり騒がしいとお母さまに叱られてしまうもの」
ユウヒ
「だっるぅい なにもしたくねー……。完璧とかどーでもいいー」
糸色恋花
「……えへへ〜っ♡」
面屋敷浪漫
「なに?ウッ、ウッ……うるさ…こわいぃ……。」
阿 鼻 叫 喚
と言えばいいのか、渾沌として混乱に満ちた空間に戸惑いを隠せない。
余りにも普段と違う彼らの様子は、集団的狂気とでも呼ぶべきだろうか。
フェイ
「………………エリィ??…………えっ…??エリィは……いや…
どうしたのだエリィ……!?」
比与森『えっと、なにこれ……?』
琴ノ緒『なんだこれ』
遠雷紬
「…………???」
リリー
「……………………は?なに…?キッショ………」
夜見塚灰慈
「…………」
モノエル
「あー!!!やっぱり罹患してるでしゅー!!
これは【絶望病】でしゅ!!!」
天城『舞円華…?』
フェイ
「絶望病とは…なんだろうか? 治るものなのだろうか……??」
心条裁己
「ぜ、絶望病……??」
夜見塚灰慈
「症状が薬物中毒者みたいだな……」
ユウヒ
「だるい何もしたくないもうだどうだっていい………」
面屋敷浪漫
「み、みんな、ちょっとヘンなの…」
エリアス
「…百合作品……すなわちそれは花同士が語らうような至高の物語です…。
私は許せません… 花と花を引き裂こうとする そう、…害虫(男)を…」
描成『………(ソッ)(誰とは言わないが握手を求める)(にっこり)』
とんちき集団のてんてこ舞を見降ろしながら、様子のおかしい彼らをちびエル達が誘導する。
ふらふらとした足取りで保健室に運ばれ、ようやく静かな空間が戻ってきた。
モノエル
「絶望病…発熱・倦怠感が伴うめっちゃしんどい風邪みたいなもの
なんでしゅが…加えて、ちょっぴり頭がハッピーになるみたいで、
性格が変わっちゃうみたいでしゅ!」
心条裁己
メアリー
「頭がハッピーに」
「は、はぁ……なるほど……」
毒桃『絶望なのは患者の頭でしょ』
滑川『……これで死んだらあの状態で来るのか?』
遠雷紬
「……[これって感染するタイプの奴?]」
モノエル
「えーとどれどれ…今罹患しているのは…エリアスしゃま、踊瀬しゃま、
糸色しゃま、面屋敷しゃま、ユウヒしゃま、花柳しゃま…6名でしゅね」
モノエル
「いやー愉快愉快。まぁしいて問題をあげるとするなら、
この病気は罹ると死ぬ確率が高いってとこでしゅ」
フェイ
「…………死ぬ…??」
描成『……死んじゃうんですか……?』
琴ノ緒『何がどうなって死ぬんだこれ……』
天城『舞円華ーー!!!こんなとこで!!!そんな病気で!!!!死ぬなーー!!!!』
「死にまーしゅ、あっさりぽっくりこってり死にまーしゅ、病死でしゅ」
モノエル
メアリー
「面白がってる場合じゃないじゃないですかぁ……」
夜見塚灰慈
「治す方法は?」
フェイ
「薬は…薬はないのか……?!」
モノエル
「もちろんお薬はありましゅよ。今急いで特効薬を増量してるとこ
でしゅけど…このままじゃ薬が足りないでしゅ」
フェイ
「足りない…………」
心条裁己
「薬の数が……?しかし、早急に手を打たねば大変なコトになりますよ」
おろおろと空中をさ迷うモノエルは、罹患者のリストを作りながら鉛筆をころころと転がしていた。
モノエル
「エル達としても、どうせ薬を渡すなら優秀な人に渡したいんでしゅよね。
今のままの皆しゃまには…貴重なお薬は渡せましぇんねぇ」
モノエル
「やる気や根性ある人が【行動】してくれたら渡す気にもなるかもでしゅが」
滑川『……まさか、今回の動機って……』
琴ノ緒『おいおい』
フェイ
「………………………………行動……」
夜見塚灰慈
「………。【行動】を」
心条裁己
「……、……」
この病気の行く末が死になると言ったその口で、薬を渡せないと告げる声に悪意が見えないから厄介だ。
たとえ今目の前で危篤の人間がいようと、この白黒は薬を寄こさないだろう。
モノエル
「とりあえずエルはお薬を用意するのと看病で忙しいから、
後は皆しゃまご自由にお過ごしくだしゃい」