Chapter3
Chapter3―少年少女だった日の思い出―
裁判編(4)
モノボウズ
「…その通り。沙梛百合籠を殺害したのは大賭清一。
君野大翔を殺害したのは江見菜みいな…それぞれの事件の犯人が協力した
結果でございます」
モノボウズ
「コロシアイが必要なくなった今、殺す必要などなかったのに。
我々はとっくに、秘密を公開するつもりなど無かったのですよ」
才羅『また死人側(こっち)がとんでもないドロドロになる可能性だけは理解した』
螺河鳴姫
大鳥外神
栂木椎名
「殺し合う必要なんて、なかったんだね…。」
「子供を殺すなんて……最低ですよ……」
「はぁ……最悪の気分だ、本当に……。
このぼくに擦り付けようだなんてね。招待状ってあたりが陰湿だ」
モノボウズ
「恐ろしい、おぞましい。妄執の果て、縋りついた男を殺してしまった女も。
疑心だけで苦痛を与え続け、何も得られなかった男も。
今、ここで処理できることだけが、唯一の救いです」
螺河鳴姫
大鳥外神
栂木椎名
「殺し合う必要なんて、なかったんだね…。」
「子供を殺すなんて……最低ですよ……」
「はぁ……最悪の気分だ、本当に……。
このぼくに擦り付けようだなんてね。招待状ってあたりが陰湿だ」
江見菜みいな
江見菜みいな
「だって…だってぇ…!!君野君、優しくしてくれて…嬉しくてっ…
あたしの王子様だって思ったのに……」
「あたしの秘密を知っても、優しくしてくれて。
だから今度こそ、今度こそは、信じても良いのかと思ったのに…
結局自分を否定されて!その後はもう、頭が真っ白で…」
泣きじゃくる女の姿に、なんとも言えない苦みがこみ上げてくる気分だ。同情ではない。どこまでも自分本位な姿に、恐ろしさを感じたことを自覚した、感情の灰汁だ。
おとり『これだから女はヒステリックで嫌なんだよなぁ。
ああいうのは、使い勝手はいいんだけどよぉ』
らぶり『ああもう、本当に…………。』
もち『サイッテーです〜!!!この男!サイッテーです〜!!』 指さし
一方で、大賭清一の方は何も変わらない。むしろどこか肩の力がぬけたように、さっぱりとした顔をしていた。
いつものように、いつもと変わらず、殺した後も、前も、変わらずに。
大賭清一
大賭清一
大賭清一
大賭清一
「んー、俺はとりあえずさっさと帰りたかっただけ。
そこのてるてる坊主ちゃんは帰してくんないしさ~じゃ、自分でなんとか
するしかないじゃん♪」
「みいなちゃんと俺は同類。自分が一番かわい~わけよ。
遠慮してこんな辺鄙な島で尽きるなんてまっぴらごめんだね♪」
「百合籠ちゃんに聞いても、あれ以上のことは本当に知らなかったみたい。
や~失敗失敗。思い切りと判断力は才能だと思ったけど、見誤ったわ~」
「そーゆうわけだからさ。俺は殺した、だから殺される。
俺は自分がやろうと思ってやったツケを払うだけ。分かりやすくって
いいね、さくっとヤっちゃってよ♪俺の方が先でいいしさ」
モノボウズ
「…我が主はあなた方へ招待状を送り、この島で平和に過ごす日を…
楽しみにしておりましたのに。残念ですよ」
モノボウズ
「それでは、これより大賭清一と江見菜みいなのオシオキを開始します。
ご希望があった通り、まずは貴方から」
肩を竦めた清一は、特に気にする様子もなく笑う。ほんの少しの寂しさだけを乗せた、からりとした笑い顔で裁判場を見渡した。
大賭清一
「ろくでもないけど、まぁまぁな人生だったわ♪」
大賭清一の処刑が完了し、残されたみいなは真っ青になって立ちすくんでいた。冷や汗が止まらない顔に涙を浮かべ、荒い呼吸を必死に整えようとするが、背中をさする者はいない。
震える身体は枯れ枝のようにか細く、くべられようとする彼女を助ける者は、いない。
モノボウズ
「さぁ、次は貴方です。こちらへ…」
江見菜みいな
「ぁ…あ……っ」
無機質な声をかけられた瞬間、みいなはびくりと肩が跳ね、歯をかちかちと鳴らしながら後ろへ一歩後ずさった。
江見菜みいな
「嫌…っ、いや、嫌ぁ!!死にたくないっ…!!!」
そう叫ぶやいなや、台座から足を離し反対方向へ駆け出した。引き留める声も腕も振り払い、無我夢中で駆け出した彼女はエレベーター…の横にある非常階段にするりと身を入らす。
あっけにとられ皆が固まる中、一番早く駆けだしたのは螺河鳴姫だった。
螺河鳴姫
「みいなちゃん!!待つんだ!!」
逃げ出せばモノボウズがどんな手段を取るか分からない。それを危惧してかけた言葉は、みいなの恐怖心を更に煽ってしまったようで、カンカンとかん高い靴音は止まない。
おとり『はぁ?!逃げ出しやがった!?往生際がわりぃ死に損ないが!』
才羅『皆がみんな大人しく受け入れろってのも無理がある。……2回目だが、あんたがそれを言うか?』
他も釣られて階段へ向かおうとする中、エレベーターが到着する音がした。いつの間にか良田アリスがボタンを押していたようで、開かれた扉の中へ入り手招きしている。
良田アリス
「全員が階段上るより、こっちの方が早いよ。
…追いつけるかは、わかんないけど」
姫宮蝶子
栂木椎名
「不気味なくらいに冷静だよね、君。少しは慌てなよ、子供らしくない」
「そんなこと言ってる場合ですか!」
登りゆくエレベーターは、いつも早く着けと願うが、今日は上に着くまでがとてつもなく長く感じた。
走る、走る、走る。足がもつれても、つまずいても、止まるわけにはいかない。
どこへ行くかなんて、何をしようかなんて、何も浮かばない。がむしゃらに、どこがどこかも分からず滲んだ世界を走り続けた。
ただ逃げ出したかった。あの恐ろしい場所から、逃げ出したかった。
恐ろしい女だと非難する目から逃げ出したかった。人を殺した現実から逃げ出したかった。己の罪の罰から逃げ出したかった。
江見菜みいな
「なんで、なんであたしばっかり、こんな目にぃ…!」
恐ろしい男に髪を掴まれ人質に取られ、仲良くなった子の死体を見つけ、皆の前で秘密をバラされ、どこまでも運のない自分を呪った。
どこをどう走ったか分からないまま、気が付けば眼前に、そして遥か下方に海が広がっていた。
岸壁をたたきつける飛沫と吹きすさむ風が髪を荒し、汗と涙の止まらない顔に張り付いてくる。
螺河鳴姫
「みいなちゃんっ…!」
振り返れば、汗だくで膝に手を付き姿勢をなんとか整える鳴姫がいた。遥か後方には、講堂から追いかけてきた他の面子も見える。
捕まれば殺される!そんな恐怖で満ちてしまったみいなの頭は冷静な判断が出来ず、一歩後ずさる。崖下から吹き上げてきた風が背中をなんとか押しとどめてくれるが、あともう一歩下がれば落ちてしまうだろう。
螺河鳴姫
「それ以上は崖だ!落ち着いて、話を聞いて…」
江見菜みいな
「嫌!!そんなことしたら、あたしっ、殺されちゃう…!!」
最早戸惑っている暇はない。一刻も早く崖からみいなを引きはがさねば、いつ潮風に煽られ華奢な体がバランスを崩すか分からなかった。
鳴姫は半ばとびかかるように腕を掴み、崖から離れようとする。その腕の力は必死さからだったが、最早みいなにとっては指の食い込む感触さえ恐怖でしかなかった
江見菜みいな
「いやあああぁぁ!!!」
振り払おうと身体をよじり、近づいてくる恐怖を突き飛ばす。手のひらで押し返した鳴姫の体は、すぐのその手のひらから離れ、妙な軌道を描いた。
螺河鳴姫
「…え」
一瞬地面から足浮いたかと思うと同時に、その姿は一瞬にして沈んだ。
みいなが崖下を覗いた時に見えたのは、見開かれた目と、どこも掴めずに伸ばされたままの手と、その指で光る指輪。
それもほんの一瞬で消え去り、水面にたたきつけられた音は飛沫に紛れる。みいなの腕の感触と落ちた帽子だけが、鳴姫がここにいた証だ。
周りのざわめきや風の音が遠く感じる。体が動かずに呆然とするみいなに、モノボウズが慈悲をかけることはない。
らぶり『ら、螺河さん!!!』
大鳥外神
「なっ……!? 螺河さん…!?」
栂木椎名
「……そうか、そうか。きみって、そういうやつだったんだな」
モノボウズ
「まったく、なんということをしてくれたのですか…!
やはり汚物はすぐさまに処理をしないといけませんね。
主が選んだお方だからと温情をかけたのが間違いでした」
ずるりと身体の下から骨組みを伸ばし、あっという間にみいなの身体を閉じ込める。檻のようになった身体の内に閉じ込められたみいなは、腕しか出せず半狂乱で叫び続けた。
江見菜みいな
「いや、死にたくない…!!こんなこんなとこで、誰にも好きになって
もらえないまま…!死にたくない、たすけて、お願いだからっ…!」
モノボウズ
「貴方が出来る唯一のことは、消えることですよ」
全てが終わって空、モノボウズが何匹かロープと杭を持って来る。崖から落ちないような配慮は、もっと早くしてほしかった。
モノボウズ
「…今回も波瀾万丈でございましたね。
皆さま、お足元に気を付けてお帰り下さい」
大鳥外神
「嘘だろ……さ、最悪だ……こんな……」
栂木椎名
「……はぁ。もう解散でいいよね?お疲れ様でした」
物造白兎
「...もういやだ..かえるです...」
大翔『運命の人を探す気持ちはわかるよ、俺はそうじゃなかったみたいで残念だな』
途方もない疲労感と喪失感がどっと伸し掛かる。一度に5人も失った穴を、誰が埋めてくれると言うのだろう。
結局アンプルのことも、矢継橋美録のことも、何もわからなかった。喪失感と後悔だけを抱いて、どうしろというのか。
誰も答えてはくれない。島の中の誰も、島の外の誰も、答えてはくれないのだ…ーーー。