Chapter1
Chapter1―2xA+xyB=xyA+2xB―
裁判編(2)
姫宮蝶子
「まずは…状況の確認をすべきでしょう。被害者は雨土筆らぶりさん。
死体発見現場は温泉の女湯で、発見時刻は朝の9時。死体の状況は…その…」
螺河鳴姫
角沢才羅
栂木椎名
「あー、無理して言わなくて大丈夫だから!まとめてくれてありがとね、
蝶子ちゃん。死因は絞殺で、裸でお湯につかっていたから…
入浴中に殺されたんだろうね…」
「なら、犯人は女に違いないな。男湯と女湯はきっちり分けられて、
逆の湯には入れないようになっているんだ」
「衝立が倒れたプチハプニングはあったけれどね。
でも、修繕は終わっているのだよね?」
☂ 温泉の工事
男湯と女湯を分ける柵が壊れてしまい、修繕修理のため【関係者以外立ち入り禁止】となっていた。
姫宮蝶子
御透ミシュカ
音切おとり
「衝立の修理は夜のあいだ行って、朝にやっと終わったようですよ」
「深夜ずっと修理してたのかな?大変だねー」
「朝までお温泉は工事で使えなかったし犯行時間は今日の朝って
ことになるよねェ」
大賭清一
良田アリス
「つまり朝にアリバイのない女の子が怪しい…ってワケだ」
「そうなの?」
大鳥外神
「…待ってください。雨土筆さんが小柄な女の子とは言っても、
首を絞めて殺すなんて、女の子や子供にできるとは思えませんが…」
角沢才羅
桜春もち
「そこの馬鹿力女なら出来るんじゃないのか?」
「もっちゃん、そんなことしませんよ~!
それにらぶち、アイドルだから体力とかすごいありましたし~…」
栂木椎名
「いや…そうとは限らないんじゃないかな?
ほら、現場に落ちていた空のジュース…
あれ、調べてみたら即効性の筋弛緩剤が入っていたんだよね」
☂ 空のジュース瓶
女湯に落ちていた空のジュース瓶。残った成分を調べると、即効性の筋弛緩剤が検出された。どちらもショップで購入可能。
良田アリス
栂木椎名
「きんしかんざい…ってなぁに?」
「えっと、力が入らなくなって、動けなくなるお薬…かな。
痛み止めとして使うんだけど、麻酔にも使われるんだ」
物造白兎
「それを飲んじまったから、アイドルのお姉さんは動けなかった…
…ってことです?」
御透ミシュカ
栂木椎名
「薬盛ったってことなのかな、サイアク…」
「筋弛緩剤で力が入らない状態なら、女子供でも首を絞めて殺せると
思うなぁ。それに、同性の方が差し入れのジュースも抵抗なく
飲んでくれそうだしさ」
大鳥外神
「た…確かに…私だったら人からの差し入れなんて、
汚くて手を付けられないが…」
大賭清一
「それはあんただけだろ…」
良田アリス
「アリスもジュース飲みたいなぁ」
芍薬ベラ
「そのジュースも薬も、ショップのやつなの?
誰が買ったか調べたらいいと思うの!」
沙梛百合籠
「お金はいらないけど、レジは通してってモノボウズに言われるものね…
そこで記録がついてるんじゃないかしら?」
御透ミシュカ
「ショップの購入履歴、教えてもらったけど…ジュースも薬も、
どっちもらぶりちゃんが買ってたみたい…」
☂ 購入履歴
事件前日のショップでの購入履歴
らぶり:瓶入りジュース、筋弛緩剤
蝶子:包丁、丸型の製氷皿
大翔:Tシャツ、ズボン
百合籠:絆創膏、ガラス瓶いりの飴
鳴姫:ラメ入りマニキュア、日焼け止め
清一:酒、タバコ
おとり:傷薬、スナック菓子
外神:包帯、添え木
御透ミシュカ
「皆色々買っているのね。あたしもちょっと前にお菓子を買ったりしたよ」
沙梛百合籠
大鳥外神
君野大翔
「標本作り中、指をきっちゃって…」
「昼間に手首を痛めたから、固定しようと思って…」
「うっかり厚着で来ちゃったから、とにかく涼しい服に
着替えたかったんだよね」
桜春もち
「らぶちが薬を買ったんなら、本当にただの痛み止めとして
飲んだのかもしれませんね~」
アヴェル
「痛み止めレベルなら、飲んでも動けなくはならないでしょ。
彼女自身が、何らかの意思を持って薬を買った…と考えるべきよ」
音切おとり
「自分で買った薬を、自分で飲んじゃったのォ~??」
沙梛百合籠
「もしかして誰かに飲ませるために買ったのかもね」
アヴェル
「誰かに飲ませるため…?
それじゃあまるで雨土筆さんが誰かを襲おうとしたみたいじゃない?」
沙梛百合籠
「その通り、彼女は誰かに薬を飲ませて殺そうとした。
けれどやり返されたのかもしれないわね……」
百合籠の言葉にざわりと波が広がる。
螺河鳴姫
「こ、怖い事を言うね。信じ難いよ…。」
御透ミシュカ
「えぇ…それはそれでヤバイ…」
可愛くて可憐で可哀そうな被害者の女の子。誰もが知るアイドルが、誰かに危害を加えようとしていたかもしれない。狙われた被害者が加害者となってしまった…。
日差しの下でも負けないくらいに明るいらぶりの笑顔が、思い浮かんでは曇っていく。
芍薬ベラ
「あの~…ちょっと気になることがある…なの…」
そろりと手を挙げて、その手に一斉に向いた視線に芍薬ベラの顔も強張る。
芍薬ベラ
「あのね、らぶりちゃんが見つかった前の日の夜なんだけど…
温泉からコテージに走っていく髪の長い女の子を見たの…」
姫宮蝶子
「な…んでそれを早く言わないんですか?!
事件現場の近くで見た人なんて、重要なことですよ!?」
芍薬ベラ
「だ、だってぇ~…らぶりちゃんが襲われたのって朝のことだから、
夜に見た人なんて関係ないって思ったの~!」
音切おとり
「髪の毛が長い女の子って言うと…ミシュカちゃんと~、鳴姫ちゃんと~、
もちちゃんもかな?」
芍薬ベラ
「暗くて誰かは分からなかったけど、子供くらいちっちゃくはなかったの!」
大賭清一
「んじゃとりあえず、小学生4人は違う…ってことでいいんじゃない?」
御透ミシュカ
「ちょ、ちょっと待ってよー!
あたし昨日の夜にでかけたりなんかしてないよ!」
桜春もち
螺河鳴姫
「もっちゃんだって、お風呂はコテージのに入りました~!」
「朝まで温泉は立ち入り禁止だったんだろう?なら、
ベラちゃんが言う通り関係ないんじゃないかい?」
良田アリス
「ねぇねぇ…なんで事件が朝に起きたってわかるの?」
君野大翔
「えっとね…朝になるまで温泉には誰も入れなかっただろう?
だから、夜の間に事件が起こるわけないんだよ」
良田アリス
「夜にも入れたよ、温泉」
良田アリス
「温泉の入り口には関係者以外立ち入り禁止って書いてあったでしょ?
だったら、関係者なら入っていいってことだよね!」
君野大翔
良田アリス
「それは工事をするモノボウズだけ入って良いということで、
俺達が入れるってわけじゃないんだよ」
「あの日の夜って、モノボウズが温泉のお掃除の手伝いを募集してたんだ。
だから、お手伝いさんなら入れたと思うよ」
☂ 温泉の掃除
事件前日、モノボウズが温泉の工事で出た汚れやゴミを片づける掃除の手伝いを募集していた。午後には募集は終了していたようだ。
姫宮蝶子
アヴェル
「そういえば、掃除の募集がどうとか言っていましたね…」
「つまり…らぶりちゃんは掃除の手伝いとして温泉に入れた
ってことかしら?」
大賭清一
「犯人も掃除スタッフの1人として、一緒に入った…
いんや、この場合らぶりちゃんに誘われたってとこなんじゃない?」
角沢才羅
「…工事の間は男湯と女湯の間の柵が無かった。
だったら男湯と女湯は自由に行き来出来たんじゃないのか?」
モノボウズ
「はい、その通りでございます。工事が終了した事件当日の朝まで、
男湯と女湯の行き来に制限はなく、スタッフであればどなたでも
入ることが出来ました」
物造白兎
「なんでアイドルのおねーさんは、わざわざ温泉に犯人を呼び出したり
したんです?」
君野大翔
「皆が立ち入り禁止だと思ってたから犯行現場を見られにくいのと…
返り血とか浴びてもすぐに洗えるから、かな?犯人だってバレないように」
物造白兎
「そういうもんなのです?うーん…」
物造白兎
「もし、本当におねーさんが誰か殺そうとしたなら…
殺した後、死体はどーするつもりだったんです?」
君野大翔
「そりゃあ…動かすわけないから、温泉に置いといたままになってただろうね」
物造白兎
「女湯で死体が見つかったら、結局おねーさんもよーぎしゃ?に
なっちまうんじゃねぇです?」
大賭清一
「…もしさぁ…死んだ男が男湯で発見されて、掃除のために出入りできた
ことをらぶりちゃんが黙っていたら、犯人は男…ってことに
なったんじゃない?」
大賭清一
「らぶりちゃんは犯人を男と思わせるために、
温泉を事件現場に選び殺そうとした…とかね」
大鳥外神
栂木椎名
姫宮蝶子
螺河鳴姫
姫宮蝶子
御透ミシュカ
「こ、子供にこういう話は聞かせたくないな……」
「まあ、人は見た目によらないものだよね」
「筋弛緩剤を飲ませてしまえば、雨土筆さんでも男性を殺せたでしょうね。
アイドルからの差し入れなら、受け取ってしまうのではないでしょうか」
「そう考えると、らぶりちゃんが殺そうとした人は男…
この事件の犯人は男性ってことにならないかい?」
「薬入りのジュースは、雨土筆さんが飲んだように見せかけるために、
犯人が捨てたのでしょう」
「そっか、男の人なら薬なんて飲ませなくても、首を絞められるよね」
君野大翔
「男の人で髪の毛が長いのは、大鳥さんだけ…だよね」
大鳥外神
良田アリス
大鳥外神
「えっ、私かい…?!」
「んーん、外神君は犯人じゃないよ。だって、昨日のお昼にアリスを
キャッチして、手首に怪我してたもん。首を絞めるなんて出来ないよ」
「あ、ありがとうアリスちゃん…ヒヤッとする……。
はぁまったく、やめてくれよ……髪切ろうかな…………」
☂ 図書館での騒ぎ
高い所の本を取ろうとしたアリスが脚立の上から落ちて、大鳥外神が受け止めた時に手首を痛めた。アヴェル、おとり、椎名がそれを目撃している。