top of page

Chapter4

Chapter4―うたかたの記憶―裁判編(1)

 捜査を終えて裁判に向かう。慣れてしまった習慣に億劫になりながら、エレベーターに乗り込み、足裏からの浮遊感がしばし続く。

 

 あたりを見渡せば、たった5人しか乗ってないエレベーターはとても広く感じた。最初に乗った時は10人以上いたのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

 自然と人と人との間に距離が出来る。それはそのまま、心の距離のような気がした。

エレベーター.png

あの招待状を受け取ったのが悪かったのか。この島にたどり着いたのが悪かったのか。自分が死んでいないのは、ただ運が良かっただけではないのか。

 

 途切れない思考、終わらない自己嫌悪。沈んで、沈んで、身体と共に心も落ちていく。

 

 深く、もっと深く。深く、深く、深く。

モノ坊主.png

モノボウズ

「…さて、すでに裁判も4回目。今更語ることはありません。

 犯人を見つけてください」

モノ坊主.png

モノボウズ

「事件の真相を、せめて哀れな子供2人の手向けとしましょう」

 元々無機質なモノボウズの声はいつになく沈み、その姿はぼんやりと増えた遺影を眺めていた。

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

アヴェル.png

アヴェル

「アリスちゃんも姫宮さんも…2人とも、モノボウズファイルで死因が

 不明となっています…どうして亡くなったのでしょうか?」

「どっちもお湯の溜まった浴槽の中から見つかったんでしょう?

 なら溺死と考えるのが自然でしょうね」

☂ ドールハウスの浴室

蝶子とアリスの死体が発見された場所。シャワーが出たままになっており、浴槽には湯が溜まっていた。浴槽まわりがシャワーで少し濡れている以外、荒れた様子はない。

栂木みじ11.png

栂木椎名

「うーん…それはどうだろう?」

栂木みじ10.png

栂木椎名

「桜春さんの事件の時も話題にあがったけど、溺れて死ぬ時って暴れるんだよ。

 生きるために藻掻くから。だから水がかなり飛ぶんだよね。

 なのにこの現場は綺麗すぎるんじゃないかい?」

アヴェル.png

アヴェル

栂木みじ12.png

栂木椎名

「気絶した状態で浴槽に入れられたとか、抵抗できない状態だったんじゃ

 ないのかしら?」

「それならわざわざ水を溜めて溺死させるより、首を絞めるなり毒を

 飲ませるなりもっと簡単に殺せるはずだ。そうやって雨土筆さんや

 桜春さん達殺されたんだからね」

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

「死体の特徴と言えば…姫宮さんは両手に火傷があって、アリスちゃんは頭部に

 外傷がありましたね。これが事件とどう関係するのか…」

芍薬ベラ.png

芍薬ベラ

「蝶子ちゃんのの火傷はわかんないけど…アリスちゃんのおケガのことなら、

 らーちゃん知ってるの!」

芍薬ベラ.png

芍薬ベラ

「アンプルが見つかる前なんだけどね、アリスちゃんが白兎ちゃんの髪の毛を

 急に切っちゃったの…その時、白兎ちゃんがアリスちゃんを突き飛ばして、

 頭をごっちんこしてたの。なんであんなことしたのかは、わかんないなの…」

物造白兎6.png

物造白兎

芍薬ベラ.png

芍薬ベラ

栂木みじ10.png

栂木椎名

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

「ほ、ほんとのことです…うさぎが突き飛ばした時、頭打ってたです…」

「突き飛ばされた時に当たり所が悪くて…というのが考えられるね」

「で、でもでも、血とかは全然出てなかったし、アリスちゃんすぐに

 起き上がってけろっとしてたの!!」

「頭の傷は軽く見えても、後々になってから症状が出ることもありますから…

 頭を軽くぶつけただけの人が、数日後突然死するケースだってあるんです」

物造白兎8.png

物造白兎

物造白兎8.png

物造白兎

「そ…それじゃ…アリスが死んだのは…うさぎのせい、なのです…?」

「うさぎがアリスをケガさせたから…」

アヴェル.png

アヴェル

物造白兎8.png

物造白兎

「どうしてアリスを突き飛ばしたりなんてしたの…?」

「だ、だって!だって……アリスがうさぎの髪を急に切って…

 謝りもしなくて…意味わかんなくて…うさぎ、大事に髪の毛伸ばしてた

 のに…だから、かっとなって…」

栂木みじ12.png

栂木椎名

「それなら正当防衛だよ。いきなり髪の毛を切られたら、身の危険を感じて

 突き飛ばすのも当然さ。相手はハサミを持ってたんだからね。

 それで呆然と見て過ごすなんて馬鹿のすることだよ」

アヴェル.png

アヴェル

芍薬ベラ.png

芍薬ベラ

物造白兎6.png

物造白兎

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

「どうしてアリスはそんなことを…とても危ないことをする子には

 見えなかったのに。その時、白兎達は何をしていたの?」」

「手入れされてないプランターさんたちが可哀そうだったから、

 白兎ちゃんとアリスちゃんを誘って、一緒にお片付けしてたの」

「途中までは、普通に片づけしてたのです。

 なのに急にアリスがハサミでうさぎの髪を…」

「あの…アリスちゃんが髪の毛を切った理由は気になるけれど、それって

 裁判に関係あるのでしょうか…?理由がどうであれ、突き飛ばされて

 怪我をした、という点は変わりませんし…」

栂木みじ11.png

栂木椎名

「アンプルも見つかって、殺し合う理由が全くなくなったのに事件が起きた…

 なら、少しでも疑問があるところは、調べるべきだと思うよ」

栂木みじ11.png

栂木椎名

物造白兎6.png

物造白兎

芍薬ベラ2.png

芍薬ベラ

芍薬ベラ2.png

芍薬ベラ

「なんだかアリスちゃん、変だったの…何か理由があったと思うの!」

「良田さんに髪を切られた時、何か変わったことはなかったのかい?」

「えっとねぇ…あ、白兎ちゃんがプランターを積み上げた時に、少し崩れて

 土とか肥料が飛び出しちゃったの。それで白兎ちゃんの髪にかかって…」

「お風呂で丁寧に洗い流すつもりだったのです!」

栂木みじ11.png

栂木椎名

物造白兎6.png

物造白兎

「それは災難だったね…あ、でも、手入れされてなかったプランターなら、

 カラカラに乾いて土も落としやすかったんじゃない?」

「そーでもねぇですよ…土に刺してあった液体肥料が割れて、それもかかった

 から結構べったりだったのです。髪の毛が長い分、服は汚れなかった

 ですけど…」

☂ プランター

コテージに設置されている吊型のプランター。手入れされていない分は、ベラ・白兎・アリスの手により片づけられた。割れたプランターの中に、割れた緑の小瓶が転がっている。

アヴェル.png

アヴェル

「液体肥料って…プランターに刺さってた緑の小瓶だよね。

 似たようなものを、どこかで見たような…」

芍薬ベラ.png

芍薬ベラ

「あ、そーなの!森の奥の建物の中にも、そっくりなのがあったの!

 モノボウズ達が見つけたアンプルも、緑の小さな瓶だったの!!」

☂ アンプル

沙梛百合籠が持ち込んだアンプル。モノボウズ達が見つけた後、森の奥の建物で厳重に保管されている。小さな緑色の瓶で、傍には沙梛が仕込んだフェイクの空瓶が大量に置いてある。モノボウズ曰く「中身は危険物だから触れてはいけない」

沙梛『ついに見つかってしまったのね……もう少し仕込んでおくべきだったかしら?』

物造白兎6.png

物造白兎

「こうして見ると、似てるです…肥料とアンプルの見た目…」

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

「これも沙梛さんが仕込んだフェイクの1つだったんだろうね。

 彼女、虫取りの為に高い所に上るのが得意だったから…」

アヴェル.png

アヴェル

「アンプルの中身って、危ないものだってモノボウズが言ってたわよね。

 もし、そのアンプルが本物だったら…白兎が危なかったんじゃないの…?」

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

「それじゃあアリスちゃんは、物造さんが危ない目に合わないように、

 急いで汚れのついた髪を切り落としたんじゃ…」

栂木みじ11.png

栂木椎名

「待った待った。それじゃ順序が逆だよ」

栂木みじ11.png

栂木椎名

「自分たちがアンプルの見た目を知ったのは事件が起こった後だよ?

 だって、森の奥の建物は事件が起こるまで入れなかったんだから」

☂ 森の奥の施設

森の奥にたたずむ謎の建物。厳重に鍵がかかっていたが、事件後はいつのまにか鍵が開いており、中に入って捜査が可能だった。

アヴェル.png

アヴェル

大鳥外神 普通.png

大鳥外神

「事件の後でないと分からない物を、知っていた…

 なら、アリスは元々アンプルの外見を知っていた…とか?」

「ど、どこで知ったのでしょう…?モノボウズはアンプル探しの最中も、

 危険物だからって自分達を近づけさせなかったのに…」

Chapter4

bottom of page