Chapter2
Chapter2―マリンスノーとスノーシュガー―
裁判編(3)
モノボウズ
「…投票の結果、超高校級の海洋学者、角沢才羅様がクロとなりました」
モノボウズ
「見事、正解でございます。
今回の事件を引き起こしたのは、誰よりも海に近しい彼でございました」
御透ミシュカ
物造白兎
「……そんな」
「.....ありえねぇやつですね。」
大鳥外神
「学者が人の命を奪うなど……あってはならないのに…………」
角沢才羅
「……ッ、……くそ……!こんなときに限って余計なことばっかり
起きやがって……」
角沢才羅
「………お前らに気づかなかった、なんて……」
才羅はじっと自分の袖口を眺めて、そう呟いた。遠目ではわからないが、うっすらと薄い透明色の小さな粒が、彼の目には映っているのだろう。
君野大翔
沙梛百合籠
栂木椎名
御透ミシュカ
大賭清一
角沢才羅
「水槽の中身に目がいかないくらい、焦っていたんだね…
いったいどうして、桜春さんを殺したんだい…?」
「それは気になるわね…桜春さん、トラブルを起こしそうな人には
見えなかったけれど…」
「なんでそんなことをしたのだか……理解に苦しむね」
「…もしかして、不明熱のせいじゃないの?皆性格変わってたけど、
もちちゃんってかなり怒りっぽくなってたから、言い争いとかさぁ」
「けど…いくら怒りっぽくなったからって、殺すほどのことじゃ…」
「…いや、そのせい…って言っていいのかわからないけど、桜春に
言われたことがきっかけだ。
あいつに、超高校級にふさわしくないって、言われてな」
御透ミシュカ
「口論に、なっちゃったんだ…」
姫宮蝶子
角沢才羅
角沢才羅
「…俺は超高校級の海洋学者なんて言われてるが、ほんとは…海が苦手なんだ」
「海が苦手って…専門家なのにですか?」
「ほら、そういう反応になるだろ?だから知られたくなかったんだよ」
らぶり『………………。』 (苦々しい表情をしている)
忌々し気に表情を険しくする才羅は、どこか物悲しいような、遠くを見るような眼でぽつぽつと語る。
角沢才羅
「昔…海で親父と同級生が死んで…まぁ色々あったんだ。
自分でも滑稽だと思ってる。けど…それでも、俺は研究を続けて、
努力して、やっと才能を認められたんだ。なのにっ…」
角沢才羅
「桜春は、俺が海に近づきたがらないのに気づいてたみたいでな。
それで、海洋学者の癖に海が苦手なんておかしいって言われて、
怒鳴り返したんだ。奇抜さだけを売りにしてる奴に、文句を言われる
筋合いはないって」
角沢才羅
「今にして思えば、あいつ熱のせいでちょっとおかしくなってたんだな。
普段ならそんなこと言う頭なんて無いだろ。
ましてや、俺の言葉にもっと言い返してくるなんて思わなかった」
角沢才羅
「俺のことを知りもせず…超高校級にふさわしくないなんて、
言いやがったから…!だからっ…!!」
そう語る彼は、言葉に怒りを滲ませで証言台を叩かんばかりに手を振り上げる。しかし、その手が下ろされることはなく、強く拳を握った後、力無くほどかれた。
角沢才羅
「今まで俺がどんな思いでいたかとか、俺がされてきた事とか、
一気に頭の中に吹き返して………気づいたら、首を絞めていた」
角沢才羅
角沢才羅
「いつもなら、簡単にそんなの振りほどけるはずだってのに…
いつもの力も出ないくらい、熱で弱ってた女を、俺は…殺したんだ…」
「分かってたのに…熱で変になってるって、多めに見てやれって…
分かってたのに…」
角沢才羅
「…後は裁判でお前らが暴いた通りだよ。ノクレチカの住処を荒らした
報いだな…あいつらまで殺してしまう羽目になった」
角沢才羅
「…あいつの言う通り、俺は……超高校級なんて呼ばれるに値しない…
……海洋学者、失格だ…」
項垂れる才羅の顔は、いつもの不機嫌そうな顔と違い笑っていた。自分のことを馬鹿にするように、自分自身を嗤っていた。
そこにいたのは、高圧的な学者でも、女の子を殺した殺人犯でもない、ただの男子高校生だ。
モノボウズ
「売り言葉に買い言葉とは、怖いものですね。
もう少し思慮深い方だと思っていました」
モノボウズ
「それでは、これより角沢才羅様のオシオキを開始させていただきます」
螺河鳴姫
君野大翔
御透ミシュカ
物造白兎
物造白兎
「あっ…待ちやがれですっ、あいつはもう自分の罪を認めてるです!!
もう…これ以上、あいつを追い詰めんなです…!」
「そうだよ…それに、そもそもあんな病気が流行っちゃったから…
もっと早く治療してくれてれば、こんなことには…」
「殺人事件の判決を私たちがするなんて間違っているよ。確かに彼は許されない
犯罪を犯したけど、後は警察が来るまで勾留ってことでいいじゃないか」
「再犯の可能性なんかないの、見てわかるだろ……!」
「こ..殺すまでしなくていいんじゃねぇですか?警察に、突き出して
罪を償わせるです..!その、もう殺さなくていいですよ、」
モノボウズ
「警察なんて来ませんよ。
あんな当てにならない役立たずが来るわけがありません」
モノボウズ
モノボウズ
「この島での安全を守るのが私の役目。不穏分子は掃除するのが私のお勤め。
私達以上に、あなた方を守れる存在などないのですよ」
「そしてこの処刑は、見せしめでもあります。
悪いことをしたらこうなりますよ、だから良い子でいましょうね…という、
当たり前のことを説いているだけです」
芍薬ベラ
螺河鳴姫
良田アリス
アヴェル
沙梛百合籠
「う、でも…でもぉ…」
「ものすごい暴論ね…」
「…貴方達なんかに守ってもらう筋合いはないわ」
「でも、人を殺した人がいる、っていうのも怖いかなぁ」
「人が死ぬところはもう見たくないんだよ!」
モノボウズ
「…角沢様、ごきげんよう」
どぽん、と水に落ちる音。それを聞いた次の瞬間、視界いっぱいに青色が広がっていた。
海を再現した照明の光が今はやけに眩しくて、しかしそれを気にするには、水の中は息苦しすぎる。
手足を動かそうにも何かに邪魔される。目線をやれば、鎖で繋がった重々しい枷が手足にかけられていた。
息を止めた口の端から泡が上っていく。枷が緩いことにすぐ気が付けても、思うように抜け出せない。
ふと、水槽の外でモノボウズが何かを操作しているのが見えた。余裕のない脳ではそれが何なのか考えるのに時間がかかる。一つ分かったのは、どうしてか照明が少しずつ暗くなっていくこと。枷から腕が抜けた、その時。
ぐしゃり、と枷ごと足が潰れた。
──加圧水槽、というものがある。深海魚の棲む海底の水圧を再現する特殊な水槽。
モノボウズが佇む傍に設置された水圧計の針が振り切れるのを、才羅は確かに見た。
自分の死に方を理解できたことを幸せとするかどうかは人によるとして。
暗く冷たい水槽の中に、圧縮された赤色が静かに揺らめいた。
赤い箱と化した水槽を前に、見世物となった死を前に、誰も言葉をうまく紡げなかった。なんと言葉に出せばいいか、わからない。
またしても、人が死んだ。自分の罪を認め悔いていたのに、それでも殺された。
君野大翔
大鳥外神
物造白兎
「…………最悪だ……」
「………………、角沢くん……………………」
「....こんなの..って...ねぇです...、」
モノボウズ
「…残念ながら、彼も落とし主ではありませんでしたね。
いまだこの中に、あれを持ち込んだ人がいて、それを隠している事実に
胸が痛くて仕方ありません」
姫宮蝶子
「あの紙切れはなんなんですか…
貴方達が探している、持ち込まれたものとは何なんですか…!」
モノボウズ
「アレは災い。アレは人に害を与え、人を苦しめるためだけのもの。
この島でもしアレが開放されれば、この島は終わってしまいます」
モノボウズ
「私達はそれを防ぐため、貴方達を守るために動いていることを、どうか
ご理解ください。例え何人犠牲にしても、最後には平穏が訪れると、
信じておりますよ」
モノボウズ
「ここより安全で、平和で、幸せな場所はありません。
こここそが、最後の楽園なのです」
良田アリス
君野大翔
栂木椎名
「最期の楽園…」
「…………こんなもの、楽園の様子ではないと思うけど」
「管理AIとして神でも気取っているのかな。
やっぱり修理が必要だと思うよ、お前」
二度目の裁判が終わり、1人分軽くなったエレベーターが上へ登っていく。
こんな生活がいつまで続くのだろう。島の外からの救助はやってこない。まるでこの島だけ世界から隔絶されたような、そんな感情が心を埋め尽くしていく。
もしかして、世界は隕石や怪獣に滅ぼされていて。
もしかして、自分たちは世間的にもう全員死んでいて。
もしかして、ここは本当はゲームの世界だったりして。
自分達を助けに来る人なんていないのかもしれない。
そんな馬鹿げた妄想を並べないとやっていられない…もどかしさを嘲笑うように、真っ赤な夕日が沈んでいく。