Chapter2
Chapter2―マリンスノーとスノーシュガー―
裁判編(1)
裁判の時間を告げるアナウンスが聞こえてくる。
捜査の足を止め、零れる溜息を止めることは出来ず、億劫な顔でレインツリーを目指し歩く。空はこんなに青いのに、海はこんなに綺麗なのに、環境と現状の食い違いがより溜息を重くした。
できれば二度と足を踏み入れたくなかった講堂のエレベーターは、ぽっかり口を開けて待ち構えていた。
逃げ出すわけにもいかず、半分諦めの気持ちで乗り込み、以前より少しスペースの開いた空間が物悲しい。
沈んでいく。
深く、深く、もっと深く、より下へ。一生落ち続けるのではないかと錯覚するほどに長く感じた、ほんの僅かな時間。
足裏から感じる揺れが振動に変わり、裁判場へ続く扉が開かれた。
以前の裁判で飛び散った血はすっかり片付き、代わりに2つ増えた遺影から目を反らす。明るい彼女の声はもう聞こえない。
モノボウズ
「今回の被害者は、超高校級のお餅屋さんの桜春もち様。
水槽の中で見つかった彼女に何が起こったのか…
それでは、議論を開始してください」
姫宮蝶子
「最初にどこから考えましょうか…気になる点はいろいろありますが…」
良田アリス
良田アリス
「ねぇねぇ、アリス気になることがあるんだけど」
「もちちゃんが見つかった水槽って、なんだか水面が赤かったでしょ?
あれってなーに?もしかして…血!?」
芍薬ベラ
「水面だけが赤いの...不思議なの...」
☂ 水槽の管理区域
水槽エリアの上部は管理区域になっており、屋外と繋がっている。水槽の蓋は開いており日差しが差し込み、水槽の水は暖かい。水面がうっすらと赤くなっている。
栂木椎名
「血ではないと思うよ。桜春さん、外傷はなかったみたいだし。
血なら水面じゃなくて水中に混ざるでしょ」
螺河鳴姫
「そういえば、あの水槽は展示プレートが取れていたね。
中には魚とか生き物は見えなかったし、生物は展示してなかったのかな?」
良田アリス
「何か小さな透明なつぶつぶが浮いてたのは見えたけど」
螺河鳴姫
「つぶつぶ…?」
芍薬ベラ
「いくらさんみたいなものなの?」
☂ 水槽
展示プレートが外れている水槽。他の水槽と違い、魚等の生物は見当たらない。よく目を凝らすと小さな白い粒が浮いているのが見える。
良田アリス
角沢才羅
角沢才羅
「…才羅君なら分かる?海のこと、詳しいもんね!」
「俺もあの水槽の中身は知らなかったが…透明な粒に、水面が赤い…なるほど」
「それはノクチルカというプランクトンだ。
気温の変化なんかで死ぬと、死骸は海面を漂い一か所にまとまり始め、
海面の色が変わって見える。これがいわゆる赤潮だ」
☂ 赤潮
日差しにより海面の温度が上昇することでプランクトンが死亡し、海中のプランクトンの死骸が溜まり、海面の色が赤く見える現象。プランクトンの種類によって、青潮や黒潮と呼ばれる。
良田アリス
角沢才羅
角沢才羅
良田アリス
「のくちるか…?んー、聞いたことあるような、ないような」
「海洋プランクトンは15万種類いると言われてるんだ、知らなくて当然だろ。
むしろ一種類でも知ってるのか?」
「ミドリムシ!」
「それは植物プランクトンだ」
大鳥外神
物造白兎
「がしんも学者なら、知ってるです?」
「うーん…ノクチルカってのはどこかで聞いた気がするけど、
プランクトンと細菌は別物だからね…わからないや、ごめんね」
アヴェル
角沢才羅
角沢才羅
「赤潮か…それじゃあ事件の時に、犯人の服に赤い染みが
ついてるかもしれないわね」
「それはないな」
「ノクチルカは水槽の蓋が開けっぱなしで水温が上がって死んで、
赤潮になった。つまり、赤潮が発生したのは遺体を沈めたずっと後の
話だ。犯人の服に赤潮がつくわけがない。事件とは無関係だ」
螺河鳴姫
栂木椎名
角沢才羅
芍薬ベラ
「そもそも、桜春さんはどうして水槽の中にいたんだろう?」
「きっと犯人が突き落としたの!
もちちゃん、泳げないって言ってたの!」
「あの馬鹿力をか?前の事件の後、コテージをぶっ壊そうとした女だぞ」
「確かに杵を振り回していたね…」
おとり『ほんと馬鹿な女だよな。俺が死んだ後でコテージ壊して、何になるんだか』
君野大翔
物造白兎
君野大翔
「確か…水槽の上の管理区域に解熱剤が落ちていたよね」
「ああ、飲むとふらふらにねむたくなるお薬ですか?
甘くてうまいお薬です。ウサギも飲んだのです」
「桜春さんはあの不明熱が出ていたよね。だったら、これを飲んで
足元がおぼつかなかったのかも…それで水槽に落ちちゃったとか」
☂ 解熱剤
熱を下げるためにコテージ近くに用意されていた薬。よく効くが、同時に副作用として眠気が強くふらつきやすくなる。子供でも飲めるように色んな味があり、現場に落ちていたのは人気のパイン味。中が湿っており、農薬が検出されている。
☂ 不明熱
原因不明の発熱。倦怠感、体の痛みなどの風邪症状に加え、性格の変化などが見られる。
罹患者は【栂木椎名】【桜春もち】【物造白兎】【御透ミシュカ】【芍薬ベラ】【アヴェル・幸雲・カルティエ】【沙梛百合籠】
物造白兎
御透ミシュカ
君野大翔
沙梛百合籠
栂木椎名
大鳥外神
螺河鳴姫
「あんな熱、ぼくはもうゴメンだよ……」
「あ、あ、あの時のことは忘れて!!
なんか頭がくらくらして、いつもと違う事言ったりしちゃったの…!」
「熱が出ていた時のことはあまり覚えていないわ……」
「熱が覚めたあとは、喉がガラガラで暫くいたかったですね....」
「健康なのが一番だよね……」
「ああ…発熱で脳がドーパミンやアドレナリンを大量放出して、
幻視・幻聴が出たり奇抜な行動をとったりする…
熱性せん妄の一種だと思いますよ」
「難しいけど、要するに熱で変になるのはしょうがないってことかな?」
姫宮蝶子
「熱が出て体力が無くなってる上に、薬で眠くてふらついたら…
水槽に落ちても不思議ではないですね」
大賭清一
大賭清一
「いやぁ、それはちょっと違うんじゃない?」
「だって水槽の中は綺麗だったし、おもちちゃんの死体って
肺に水が溜まってなかったんでしょ?
落ちて溺れ死んだなら、もっと暴れて痕が残るっしょ」
☂ 水槽の様子
もちの遺体が発見された水槽。中の海藻や石は綺麗に飾られて荒らされた様子はない。
沙梛百合籠
「…桜春さんは解熱剤を飲んで水槽に落ちてしまったけど、
溺れ死んだわけじゃない…。
なら落ちた時点で死んでいたというのはどうかしら?」
沙梛百合籠
「あの解熱剤には農薬が入っていたでしょう?
農薬は種類によっては人にとって強い毒になるわ。
桜春さんは中毒死したのよ」
☂ 農薬
ビニールハウスで使用されている薬。かなり成分が強く、人体への有毒性が高い。ハウスの棚にいつでも使用できるように置いてある。
沙梛百合籠
「たしかあの農薬…ビニールハウスで使われていたわね。
誰でも簡単に持っていくことが出来たはずよ」
御透ミシュカ
「そういう百合籠ちゃんもお熱が出てる時に、虫を取るのに使うぜー!って
走って行ってたよね…」
沙梛百合籠
「あら…なんのことかしら?」
芍薬ベラ
栂木椎名
「つまり農薬を取るために、ビニールハウスに行った人が犯人ってことなの?
誰が行ったか分からないの??」
「そういえば…ビニールハウスに無地のピンク色のリボンが落ちていたけど…
これって誰のリボンなんだい?」
☂ ビニールハウス
多数の作物を育てている温室。立ち入りは誰でも自由で、一部の農具・農薬・作物は自由に持って行くことが可能。棚の近くに無地のピンク色のリボンが落ちている。
大賭清一
「リボン…っつっても、リボンつけてる子多いじゃん」
物造白兎
君野大翔
「リボンは可愛いを作る上で重宝するですからね。」
「ピンク色かあ」
良田アリス
物造白兎
御透ミシュカ
螺河鳴姫
姫宮蝶子
芍薬ベラ
「あ、あたしのリボンは紫だから違うよ!」
「私の腰のこれもリボンに入るのかい?見ての通り紫だよ」
「私のリボンは黒ですし、今もつけています」
「ウサギのドレスは赤いリボンだからちげぇです!」
「アリスのリボンはライン入りだから無地じゃないよ」
「らーちゃんの首のリボンは薄緑なの!」
大鳥外神
栂木椎名
大鳥外神
「このピンク色のリボンをつけていると言えば…
カルティエさんじゃないですか?」
「……ああ、そういえば、エレベーターにいる時から片方付けてなかったよね」
「普段の貴方を見ているとそんなことをするとは思えません。けれど…
貴方も不明熱で大分感情的な性格になっていたようですが…」