chapter3- 高き月見し夜想曲、
赤色讃美歌に口付けを-
chapter3-高き月見し夜想曲、
赤色讃美歌に口付けを-裁判後編
茶渡利三沙
「……舞円華、君が…?」
糸色恋花
「…ヒール履いてる姿しか見たことないけど、踊瀬さんとエリアスさんは、
背が同じくらいだわ……」
黒羽麗
「踊瀬ちゃん……」
モノエル
「今回はあっさり犯人がわかっちゃいまちたねぇ。投票は…どうやら
いらないようでしゅ。踊瀬しゃま、何か言い残したことはありましゅか?」
踊瀬舞円華
踊瀬舞円華
「そうだね……。うん。少し、話をさせて欲しいな」
「…まずはこのような事件を起こしてしまって、
更に話を長引かせてしまって本当にごめんね」
踊瀬舞円華
「……さっきも言った通り、エリアスさんを殺してしまったのは私なんだ。
倒れている灰慈を見て、何故か“エリアスさんを殺さなければ
ならない”と、…そう、思ってしまって」
踊瀬舞円華
「…だからと言って病気だったとか、そういうことを言い訳にするつもりは
ないよ。人の命を奪ってしまった、それは変わらない」
踊瀬舞円華
「………だから、私はこれから殺される。貴方達の目の前で。
…ごめんね、見たくない人はどうか見ないで。
見たい人は……、見ていて構わないけれど」
踊瀬舞円華
「私は貴方達の負担になりたいわけじゃあないから、
忘れたい人は私を忘れてしまって構わない。恨みたい人も恨んで」
ユウヒ
黒羽麗
面屋敷浪漫
「ご主人様……」
「……踊瀬ちゃんの懺悔はちゃんと受け取ったよ。
だからその、安心して……ほしいな……うん」
「なんだか、ずるいひと…ですね。」
リリー
「……………………………………………」
踊瀬舞円華
「……、…紬さん。………、…私は、“独り”の寂しさを知っている。
…だからこそ、居なくなりたくなかったのは本当だよ。……。
…言ったこと、どちらも守れなくてごめんね。許さなくて良いよ。
……、…身勝手な我儘だけれど、幸せに生きて欲しいな」
踊瀬舞円華
「……声、聞けて良かった。
遠雷紬
遠雷紬
「……い、」
「……いやです。」
遠雷紬
「……お願い。………します、……もう、死ぬ所。見たくありません。
…いかないで、ください」
遠雷紬
「…また、私は……置いていかれるんですか」
踊瀬舞円華
「……。…本当に、ごめんね」
踊瀬舞円華
「……うん。私は大丈夫。もう、“良いよ”」
踊瀬舞円華はひとしきり話し終えたあと、柔らかく微笑んだ。
穏やかな笑みは、諦めよりも安らぎを感じられる優しい眼差しだった。
その瞳の色はただ黒色だけが映している。
形のいい唇で紡がれた声に、モノエルは頷いた。
モノエル
「物わかりの良い人は嫌いじゃないでしゅよ。
それでは…エリアスしゃまを殺したクロとして、これよりオシオキを――」
今までと同じように、モノエルが高らかに処刑を宣言しようとする。
今までと違ったのは、それを遮るようにかつんと足音が鳴ったことだ。
夜見塚灰慈
「その言葉は、俺に向けられた言葉と捉えて良かったよな。舞円華」
踊瀬舞円華
「…灰慈。……うん。そうだよ……ありがとう。」
黒い羽織が揺れる。腕の無い右側ばかりが不自然に揺れる。
処刑の前の静けさの中、夜見塚の黒い靴が出した音は異様なまでに響いた。
踊瀬の傍まで歩み寄るその表情は、サングラスの向こう側のその瞳は、
対面した踊瀬以外の誰にも伺うことができない。
全身を黒く染めた彼を前に、踊瀬は再び微笑んだ。
その笑みがあんまりにも優しいものだから。
誰もが、夜見塚が踊瀬を刺したのだと理解するのに時間がかかった。
胸から血を溢れさせて、黒い髪を揺らしてゆっくりと倒れる様でさえ優雅だった。
血を吐き出しながら、けれど表情は苦悶に染まる事はなく、その息づかいはほどなく止まる。
とても長く感じた一瞬のことだった。
夜見塚灰慈
夜見塚灰慈
夜見塚灰慈
「…俺がフェイの自殺を止める事ができれば、フェイは死ななかったろう」
「エリアスが俺を刺すこともなく、舞円華が人を殺すことも無かった」
「それなら、俺のせいで罪を背負った舞円華の罪を、
俺が背負うのは道理だよな」
そして彼は、夜見塚灰慈は、踊瀬舞円華を殺した男は。
暗い暗い瞳で裁判上のその他大勢共を一瞥して。
自ら命を絶ったのだ。
ユウヒ
花柳玲子
茶渡利三沙
心条裁己
「………お前…!」
「っ…………!!この馬鹿……!!」
「舞円華、灰慈…そんな……」
「……な……」
描成『……そん、な………』
カレブ『おいおいおい!!ハハッとんでもない奴だなぁ!!
あ゛ー……はははっ…お前もこっちに来るのか。うん、うん。面白いなぁ』
毒桃『なに笑ってんのよ!!』
モノエル
「自殺、でしゅか。せっかくオシオキを用意したのに、見せられないのは
残念でしゅねぇ。死体蹴りの趣味はないでしゅし…
今回は味気ないけど、これで閉廷としましゅか」
モノエル
「裁判場のお掃除もしないといけないでしゅし…
はー、オシオキならすぐに掃除できるようにセットしてたのに、
余計な仕事増やしてくれまちたねぇ」
黒羽麗
「え……え……?」
面屋敷浪漫
「っ…!……彼らはこれを…望んでいるのでしょうか…?」
糸色恋花
「………もう、やだ………わけわかんない…」
肩を落とすモノエルは、帰り際に追加の仕事を言われて残業することになった、そんな程度の口ぶりだった。
出入口を開けると、他の者へ帰るように促しはじめる。
モノエル
「お手伝いとかはいらないでしゅよ、皆しゃまお疲れでしょうしね。
こういう雑用はエル達の仕事でしゅよ。
それにこういうのは前にもありまちたから」
前?
前とはいつのことだろう。
問えど解はなく、亡骸は粗大ごみのように処理されていく。
鼻の奥にこびりついた鉄錆に匂いが、いつまでも消えないままに…。
遺品「黒いマニキュア」
爪先を彩る真っ黒なマニキュア。
今では酸化した血で真っ黒になってしまった。
遺品「サングラス」
とある裏社会の子息が付けていたサングラス。
かける人がいない今ではただの薄汚れたガラス板。