chapter3- 高き月見し夜想曲、
赤色讃美歌に口付けを-
chapter3-高き月見し夜想曲、
赤色讃美歌に口付けを-裁判前編
3度目のエレベーターの軋む音は、がらんとした空間に響く。
この施設での暮らしが始まってから、既に半分近くの人間が死んでしまい、裁判の席が灰色で埋まる。
モノエル
「1つの部屋に3人の男が倒れていた…一体何があったのやら
高貴なお部屋はすっかり血みどろでしゅ」
モノエル
「まぁそれでも、被害者が2人だけというのは喜ばしいことでしゅね。
何せこないだの事件は3人も死んでしまいまちたから」
モノエル
「さぁさ、さぁさ、はりきって参りましゅー!」
茶渡利三沙
「張り切るといわれてもねえ」
遠雷紬
「………、…」
糸色恋花
「……(目を伏せている)」
モノエル
「部屋の中にいた3人のうち、生きていた1人が重要参考人ってことでしゅ。
というわけで夜見塚灰慈しゃま、事件の事を話てくだしゃい」
夜見塚灰慈
「……………」
モノエル
「……………あのー、夜見塚しゃま?
よーみーつーかーはーいーじーしゃーまー?」
モノエル
「はぁ…困りまちたね。普段べらべら回る口なのに、
まさか何の証言も出せないなんて思いましぇんでちた」
夜見塚灰慈
「うるさいな。いつも通り裁判をしていればいいだろ。」
花柳玲子
「………夜見塚さん?」
茶渡利三沙
「…まあ、灰慈にも黙秘する権利はあるだろうが…
個人的には話を聞きたい所なんだがな」
毒桃『なんで何にも喋ってくれないのかしら?喋ってくれたら楽なのにー』
滑川『……喋れないことでもあるのかな』
琴ノ緒『そりゃ刺されてんだしな』
モノエル
「夜見塚しゃまとエリアスしゃまは刺し傷で、フェイしゃまは外傷がない…
それが1つの部屋に固まってるなんて、とっても不思議でしゅね」
花柳玲子
「そうねぇ……まあ、じゃあこのあたりからいきましょうか。
……カヴァネさんは死体に傷もないし、抵抗した様子もないわぁ。
…何が原因で死んじゃったのかしら」
糸色恋花
「(手帳の鍵を開き)フェイさんのお部屋に瓶が落ちているのを見たし、
えっと…瓶は保健室にあったって聞いた」
ユウヒ
「保健室と言えば…事件の時、熱のせいで花柳のご主人様と一緒に
保健室で寝てました~!あの日見たのは、フェイのご主人様、
遠雷ご主人様と、メアリーのご主人様が薬棚に行っていたことくらい
ですかね~。残念ながらは時間は覚えてないですよぅ」
【落ちていた空瓶】
現場に落ちていた空っぽの瓶で、ラベルには劇薬と大きく漢字で記してある。
これを飲んだ場合、時間をかけてゆっくりと死んでしまうため、注意が必要。
元々は保健室にあった。
茶渡利三沙
「まあ皆想像ついていると思うが… 現場に落ちていた劇薬を飲んで
死んでしまった…と考えるべきだろうな。保健室で薬棚に近づく
フェイを見た人もいるし、保健室で保管されていたものに違いないと思う」
花柳玲子
「カヴァネさんは服毒死…残りの二人の傷は落ちてた短刀と
一致するわねぇ。……同じ凶器で刺された…ということだけれど、
そもそもこれどこにあったのかしらぁ?」
モノエル
「それならエルがエリアスしゃまに差し上げたものでしゅよ。
母国で使ってた短剣と同じオーダーメイドでしゅ!」
【エリアスの短刀】
エリアスがモノエルに頼んで仕入れてもらった短刀。
柄に青いバラが刻印されており鞘には金の紋様が入っている。
事件当時、現場に落ちており血で汚れていた。
遠雷紬
「……[エリアスさんはさいしょうという立場から、
かなりけいかい心が強いし短刀を盗まれたとは考えにくいです。
だとしたらエリアスさんは自分で持っていた短刀で夜見塚さんを刺した
ということですか?]」
花柳玲子
「しかもサルヴァドールさん自身もその短刀で首を刺されて死んでいるわぁ。
つまり……夜見塚さんも彼を刺した……」
花柳玲子
「………。サルヴァドールさんが何らかの事情で夜見塚さんを刺した後、
今度は夜見塚さんがサルヴァドールさんを刺した。
……夜見塚さんはそのまま気絶して、サルヴァドールさんは失血死…
ってことかしらねぇ」
茶渡利三沙
「お互いに刺しあいかい?物騒なことだ」
紅緑茶
「争う理由がないんじゃないか?
エリアスと夜見塚、仲が悪いようには見えなかったが」
面屋敷浪漫
「そういえば…お昼ご飯を終えて食堂から出た時、灰慈さんがフェイさんの
部屋に入っていくのを見ましたよ。食堂を出たのは12時丁度です。
すぐに腹ごなしに遊戯場へ行きましたから、その後は知りませんけど。」
リリー
「メアリーと喫煙所にいたらエリアスがやってきて、しばらく話していたわ。
確か…12時から15分くらい話してたかしら。フェイちゃんの様子を
見に行くって行って出て行ったわよ。
あれが最後になるなんて思いもよらなかったわ。………はぁ…」
花柳玲子
「二人の証言を合わせると、カヴァネさんの部屋に先に入ったのは
夜見塚さんねぇ。その後サルヴァドールさんが来て乱闘になった、と。
……部屋の中で、何があったのかしらぁ」
メアリー
「……Hmm,ハイジさんが、フェイさんを殺したんじゃないですかぁ?
それを見たエリアスさんがハイジさんを…。主人であるフェイさんを
あれだけ大事にしてたエリアスさんなら、そうするかもしれませんよぉ?」
花柳玲子
「待って?けれど彼の部屋には遺書があったわぁ。
…毒薬も保健室に自分で取りに行っている。
……カヴァネさんは自殺なんじゃないの?」
紅緑茶
「遺書なんて偽造できるだろ。筆跡鑑を見ても、字を知ってるエリアスは
死んでしまったし…だいたい、宰相の為に命を捨てる王様なんて不自然だ」
「ややこしくなってきました〜」
茶渡利三沙
「遺書ねぇ…たしか青い薔薇の蝋印がされてたやつだよね。
わざわざ日本語で、病気にかかる前に死ぬ~なんて書いてあったやつ」
メアリー
「Umm…蝋印はシーリングスタンプで自分で押したみたいですね。
スタンプがたくさんあって、色も自分で調整できるタイプでしたよ」
ユウヒ
「青い薔薇って言うと、エリアスのご主人様達の母国の国花らしいですね~。
本とかにも載ってないくらい、マイナーらしいですけどぉ」
【遺書】
フェイの部屋に置いてあった未開封の遺書。
病気にかかる前に自ら命を絶つ旨が日本語で書かれている。
青い蝋に薔薇の刻印が刻まれた蝋印がされていた。
【シーリングスタンプ】
手紙に封をするための蝋とスタンプのセット。
数十種のスタンプと、自分で色を調合するタイプの蝋が並んでいる。
【国花】
モノエル「日本は桜、インドは蓮、オーストリアはエーデルワイス…
その国を表す花はどれも綺麗でしゅね。亡くなった2人の国花は青いバラ
なんでしゅけど…マイナー過ぎて本にも載ってないレベルなんでしゅよね」
リリー
「んー……この遺書には、フェイちゃんの母国の国花である青薔薇の蝋印が
されているわ。」
リリー
「けど、国花のことは誰も知らないような情報だったわ。
自分で色を調合する蝋に数十種類のスタンプで、偶然国花の組み合わせに
なるとは考えにくいと思うの……遺書はやっぱり本物じゃないかしら…」
花柳玲子
「そうねぇ。…遺書が本物でカヴァネさんは自殺。
……それらが事実だとして、それでも『サルヴァドールさんと夜見塚さんが
争っていない』ってことにはならないのよ、残念ながらね」
花柳玲子
「カヴァネさんの遺体のそばに夜見塚さんが立っていた。
……その光景を見たら、あの妙な病気におかされてたサルヴァドールさんが
彼に襲い掛かったとしても不思議じゃないのよぉ。
……すごく頭がぼうっとしたもの」
茶渡利三沙
「エリアス…そして返り討ちにあったんだね…。
心条裁己
「遺体は、確かいつもより軽装でしたね……
熱があったから、楽な格好をしていたんでしょうか」
メアリー
「左頸部についていた傷も、部屋に落ちていたエリアスさんのナイフと
一致しますし…」
糸色恋花
「……あれ?うーん……ちょ、ちょっと待って……!」
糸色恋花
「エリアスさんの傷口って…、首の左側ですよね?
それってエリアスさんと対面した場合、右から刺したって事になるんじゃ
ないかしら。……右腕の無い…その、左腕しか使えない夜見塚さんには
難しいんじゃないかなって……」
糸色恋花
「それに…、これは少し疑問なんですけど、夜見塚さんはエリアスさんより
10cmくらい…?背が低いと思うんですけど、それならわざわざ首元を狙う
必要ってあるのかしら。低ければもっと……夜見塚さんの傷みたいに、
お腹とか狙えばいいんじゃ…?」
黒羽麗
「たしかに……?」
夜見塚灰慈
花柳玲子
花柳玲子
「やればできるが…?」
「……そうねぇ…やればできるのだろうけれど、自然かと言われれば
疑問だわぁ」
「それにサルヴァドールさんは王さまを守る立場として、
かなり鍛えられていたはずよぉ。…脇腹を刺された夜見塚さんが、
短刀を奪い取って首を刺すっていうのは難しくない?って」
リリー
「まぁ、そうよねぇ。そこは私も同感~~」
茶渡利三沙
「エリアスが踏んできた場数に比べたら、か」
モノエル
「エリアスしゃまは実際、とってもお強いでしゅよ。なにせ王である
フェイしゃまを守るためなら殺しだってやってきまちたからね」
毒桃『エリアスさん、そんなに強かったんだ…』
モノエル
「自分の手を血で汚してでも守りたかったのに、肝心のフェイしゃまは自殺。
浮かばれましぇんね~部下の気持ちがまるでわかっちゃいない。
だから弟に王位を奪われて追われる羽目になるんでしゅよ」
モノエル
「ま、これで名実ともにあの国は晴れて弟君のもの。
王位継承争いも一件落着、でしゅね!」
糸色恋花
「……前者は裏付けになるかもしれないけど、最後のは
いらないんじゃないかしら」
リリー
面屋敷浪漫
「………ちょっと黙っていただいて宜しいかしら。話し合いの邪魔よ…」
「…。」
比与森『弟に……』
モノエル
「それに野郎同士の乳繰り合いが愛読書のエリアスしゃまに、
そんなエリアスしゃまにほの字のフェイしゃま。身分差亡命ほのぼの
ラブコメディなんてお気楽ライフで、楽しくやってたみたいでしゅよ」
黒羽麗
「あっ……ひぞーとしょってそういう……」
遠雷紬
「………(何かおかしいなって思っていた顔)」
リリー
「………(聞かなかったことにした顔)」
心条裁己
「ンンッ……話を脱線させないでください、モノエルさん」