top of page

chapter5-アー・ユー・レディ?-

chapter5-アー・ユー・レディ?裁判後編


なんだ裏切り者が、また何かひっかきまわすつもりかとうんざりした顔を
隠さぬ周りをよそに、心条は続ける。

糸色恋花2.png

糸色恋花

「……何」

心条裁己2.png

心条裁己

「皆さん、よく思い出してください。最初にこの施設に来た時のことを、

 最初の記録を」

最初の記録.png
茶渡利三沙3.png

茶渡利三沙

「最初の記録…ああ、確かにあったけれど…あれがどうかしたのかい?」

花柳玲子2.png

花柳玲子

心条裁己2.png

心条裁己

「あの記録…って、モノエルが部屋が足りないって言ってたことでしょ?」

「大事なのはそこではありません。あの記録では、モノエルが最後に

 入ってきた時点で、扉が【22回】鳴っているんですよ」

モノエル.png

​モノエル

「あの時点では花柳しゃまはまだ来てなかったから、参加者は22名。

 何もおかしくないでしゅよ」

心条裁己2.png

心条裁己

「22名の参加者とモノエルを合わせたら、扉は23回鳴っているはずです。

 にも関わらず、扉は22回しか開いていない……つまり、その時点で参加者は

 本当は21人で、花柳さんを足してやっと22人になったはずなんです」

リリー.png

リリー

「あら、確かにそうねぇ…」

遠雷紬7.png

「分かりづらい。まどろっこしいから、さっさと言いたいこと

 言ってくれない?」」

花柳玲子2.png

花柳玲子

「…………それって…本当は全員で22人だったのに、いつの間にか

 部屋の中に【一人参加者が増えていた】ってこと…?

 そんなお化けじゃあるまいし…」

心条裁己2.png

心条裁己

「……皆さんは、秘密の部屋の【紅茶と香】【天使】の資料を見ましたか?」

サイト用ボックス.png

【紅茶と香】

独自の製法で作られた紅茶と香。定期的に摂取することで、多幸感、高揚感、陶酔感を感じることができる。これらは神が我らに与えたもうた幸福であり、かつて失った存在と出会う術でもある。時には【天使】が我らを導く時さえある。毎日少しずつ定期的に服用し、身体の血液とすべし。

サイト用ボックス.png

【天使】

我らを見守ってくださる存在。今までも幾度がその存在は確認され、我らの行動を見守ってくださってきた。天使は紅茶がお好きなようで、紅茶を飲んだ時のみ存在が確認できている。今回は参加者の中から見守る形で降臨されたらしく、丁重にお出迎えするように。

花柳玲子2.png

花柳玲子

「まあ見た……けれどぉ」

心条裁己2.png

心条裁己

「この紅茶と香の資料の内容……要は、私たちが毎日飲まされていた紅茶は、

 幻覚作用のある薬物の類であったということです。

 その影響で【存在しない者】の幻覚、例えば死んでしまった人たちの

 姿を見る……それがあのお茶なんです」

糸色恋花2.png

糸色恋花

「………幻覚とか集団ヒステリーを疑いたくなるけど」

花柳玲子2.png

花柳玲子

「はあ?【天使】が参加者の中に降臨…って、それじゃあ…

 まさか、参加者の中に【実在しない人】がいるっていうのぉ…?」

遠雷紬7.png

遠雷紬

「……何それ…いるじゃん、ここに」

心条裁己2.png

心条裁己

「ええ。にわかには信じがたい話ですが…この閉鎖空間と常用された薬物、

 緊迫した非日常的な状況が引き起こす集団ヒステリーの一種…

 …集団幻覚を見ていたんですよ、私たちは」

心条裁己2.png

心条裁己

「そして、その存在しない人物が誰かは……モノエルが撮った写真たちが

 示してくれます」

写真まとめ1.png
写真まとめ2.png
花柳玲子2.png

花柳玲子

「………この写真、よく見ると一人だけ映っていない人がいる…」

茶渡利三沙3.png

茶渡利三沙

遠雷紬8.png

遠雷紬

心条裁己2.png

心条裁己

遠雷紬8.png

遠雷紬

「…はは、まさか」

「やめて」

「そう……初めから存在しなかった人間……それは」

「やめて!」

心条裁己2.png

心条裁己

「……紅緑茶だ」

天使はいない.png

空白の裁判台だけが、そこにはあった。

初めから何もなかったように、埃の積もった裁判台だけが、そこにあった。

天城『…………嘘でしょ』
比与森『え………?な、なに?どういうこと……?』
夜見塚『…ああ、だから』
描成『え……?な、なに言ってるんですか……?
         だ、だっていましたよ…ね……?茶さん……』

花柳玲子2.png

花柳玲子

「…………いない」

糸色恋花2.png

糸色恋花

「………なに、それ…私達、何を見せられていたの?

 何を見せられているの………?」

リリー.png

リリー

茶渡利三沙3.png

茶渡利三沙

遠雷紬8.png

遠雷紬

「………まぁ、気になるところはあったのよねぇ…ずっと…………」

「………君が状況を攪乱させている訳じゃなくて?茶が、存在しない?」

「……さっきからなんなの。嘘だ」

モノエル.png

​モノエル

「さっきからどうしたんでちか?

 天使しゃまを追い出すなんて愚行、赦されないことでちよ…?」

首がもげそうなほどにかしげるモノエルに向き直す目は、かつての怪しくも柔和な目つきではなく、
鋭く突きさすようなものだった。

怨敵を射殺さんばかりんの眼差しで、彼は言う。

心条裁己2.png

心条裁己

「あの記録を見て、秘密の部屋が開いたことで、ずっと疑問だったことが

 ようやっと分かりました。……ここまで来るのに随分と回り道を

 してしまったけれど……やっと、やっと確信が持てた」

心条裁己2.png

心条裁己

「ここは才能復興支援協会なんかじゃない。ここは才能を司る神を崇める

 宗教団体【カスタード教会】。そこのモノエルも、このコロシアイを

 管理する黒幕も、すべてその教会の信者なんですよ」

心条裁己2.png

心条裁己

「この協会は、定期的にこうして人間を集め、殺し合いをさせる。

 かつてこの施設にやってきた私の姉同様、幾人もの人間が

 犠牲になってきた。……だが、それもここまでだ」

糸色恋花2.png

糸色恋花

「心条さん、貴方…………何なの?」

sinzyou.png
心条裁己3.png

心条裁己

「俺は【超高校級の公安】心条裁己。

 このカスタード教会の真相を暴くために、ここまでやってきた」

モノエル.png

​モノエル

「……………はぁ?


モノエルの、心底感情を滑り落したような声が、心条の言葉が真実だと物語っていた。

心条裁己3.png

心条裁己

「本当に、嘘みたいに騙されてくれていたみたいだな。モノエル」

茶渡利三沙3.png

茶渡利三沙

「…待ってくれ、情報量が多すぎて追い付かないよ……」

リリー.png

リリー

「…………あら…まぁ……」

モノエル.png

​モノエル

「…………」

モノエル.png

​モノエル

「……………………」

モノエル.png

​モノエル

「…裁判は終了しまちた。各自、部屋へ戻るように」

茶渡利三沙3.png

茶渡利三沙

「……モノエル、説明は何かないのかい」

糸色恋花2.png

糸色恋花

「何それ、人の嫌なことベラベラ喋ってたくせして

 自分の都合悪いこと話されたら黙りって……!」

静かに、今までとは真逆の無機質な音声を零しながら、モノエルはどこかへ飛んでいく。
心条を罰することなく、否定も肯定も口にせぬままに。

さぁ、足を進めよう。前へ歩みゆこう。


―――――――――――終わりを迎える準備のために。

 

生き残り人数5-2.png
5章後編.png

chapter5-アー・ユー・レディ? 終了

chapter5-アー・ユー・レディ?-

bottom of page