
その建物に入ると、出迎えてくれるのはエントランスホールと二つの螺旋階段。
かつかつと上る足音は、1階の天井を境にふっと消える。
火薬の爆ぜる音の響かない2階は、ひどく静かだ。
また、昇る。
かつん、かつんと、更に昇る。
昇った先に最初に足を踏み入れたのは誰だろう。
似たような通路を曲がって奥へ手招きされれば、仰々しい重たい扉が貴方を待っている。
制御室、とされこうべは言っただろうか。
人工的な羽虫の群がるような機械の音が、ずっと貴方の鼓膜を刺激し続けている。
見たこともない複雑怪奇な機械達は、人類の英知の結晶なのだろう。
しかし理解できなければ、ガラクタとそれの区別ができないだろう。
世界が貴方達を理解できなかったように。
世界が貴方様を理解してくれなかったように。
ひとつ、古びたアンテナテレビが床に転がっている。
ひび割れたブラウン管が映すほの暗い映像は、四角とに逆三角がついた模様…ありていに言えば、手紙のマークに似ている。
声がする。ざらりと撫でる、誰かの声が。
不定期に流れる誰かの声を、貴方は知っている…そんな気がした。
打ち捨てられた鈍色の箱から聞こえてくる、ガラクタのノイズ。
「何を仰っているのですか。私も別に顔はよくありませんよ。怖がられるから顔を隠していただけで」
「それはないです!!!!!!!!!!!!!
顔すごく綺麗で好きです!」
「……え、あ、はい。ありがとうございます……?」
「姉でありつづける、それが君なりの償いかい」
「償うつもりなんてない!けれど、」
「姉として生まれた以上は、そうするしかなかった」
「あんたと違って血が繋がってるから!わかんないけど、でも、」
「…………わかんないけど……弟のせいだって、私は、叫べなかったんだよ…」
「...ごめんね...つらいのに、なんにも出来なくて...せめてあたしが代わりになれたらいいのに...」
「…優しいね、君は………だめだよ、これは……この辛さは私のもの、だから…君は君の辛さに耐えて、ね………?」
「…………いいな、食べたかった」
「……うん、食べたいもの、行きたい場所、やりたいこと、いっぱいあったよね」
「....いつまで続くのかなぁ」
「……下手な事を言うとモノホネの場合彼を殺して此方側に連れてくる、なんて可能性だってあるんですよ?」
「……そんな簡単に変われないよ。きみ達、私を何だと思ってるんだい」
「永遠の別離を、たかが数か月で乗り越えられるわけないじゃん!死を引きずったっていいじゃん、感傷に浸って悪い!?」
「っ……う、く…ぅ……やだ…泣かないでよぉ……」
「惚れた女が死ぬと、男ってあんなに取り乱すものなのかい?」
「まあ平常心ではいられませんよね」
「……悠耶ーーーっ!!秘をキッチンに立たせないでーーー!!」
「…あの時ああしていれば、こうしていればと思ってしまうのも仕方のない事だと思うんです。それが絶望なのかは分かりませんけれど…自分の選択が取り返しの付かない事態を引き起こしてしまったという事実だけがのしかかってくる。それは、受け入れるにしても辛い事だと思います…」