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last chapter エピローグ
血煙の匂いを最期に、裁判場が稼働することは二度となかった。
苦々しい処刑の記憶も、ためらいながらに押した投票ボタンも、握りしめた手すりも、全てが塵芥と化して残骸となった。
つい先ほどまで、温もりこそなかったが僅かな間相まみえた影たちはどこにも見えない。
全てはただのプログラム、精密に作られたただのデータ。
それだけのはずなのに、確かに自分たちは言葉を交わし、そこに彼らは最期までいた。
終わった。
終わったしまえばあっけなく、しかし途方もない疲労感とやるせなさを胸に貴方達は裁判場を後にする。
冬の冷たい風が体を震わせるはずなのに、妙に寒さを感じないのは開放感からか、あるいは疲労により心までかじかんでしまったからか。
ざり…ざり…と砂を踏む音も重く、灰色の海に浮かぶ船がこちらへ向かうのをぼんやりと眺める。
ここに来た時は夏の日差しが眩しく、潮の香りはあんなにも希望に満ち、水面の煌めきに胸躍らせたというのに。
6人分にまで減った足跡がうっすらと砂に残る。

神楽坂棗
何もかも無くなったんだね。

砂六々子
終わった…んすね、本当に。

万針集
あー……ほんっとうに疲れた…

神蔵亜楽汰
やっと、か…

市蔵
……こんな終わり方で本当に良いのか…?

貴花比嘉
夢を見ていたの様な…、でも確かにアイツらは生きていたんだよな。

砂六々子
まだ…ちょっと…ぜんぜん…実感ないっすけど…

神楽坂棗
なんかすごい呆気なかったけど…寂しいな〜やっぱり…

万針集
……うん、寂しい
最後までよくわからなかったな…愛か〜……。

市蔵

神楽坂棗
みんなが此処に集まった事は確かだよね…絶対忘れない…

砂六々子
っす、忘れないっす…

神楽坂棗
ん〜とりあえず、帰ろっか〜…

神蔵亜楽汰
戻ってからがどうなるやろな…
出航のエンジン音が響く。
お別れだ。苦みと酸味だけでは表しきれぬ記憶を植え付けた島との別離に目を細める。
誰かが砂浜で手を振った気がした。
先ほどまでの感覚が残っているのか、目の錯覚か幻覚か。あるいは中枢システムの残存バッテリーか。
見送ってくれた影は、ひどく暖かく口の中に潮の味が広がった。
警察か自衛官か何かわからないが、船から降りてきた大人たちが入れ違いに船に降りていく。
きっとこれから大規模な捜索や、本物のマスコミの手が自分達の爪痕をほじくりかえすのだろう。
それを世間様は面白おかしく語り、自分たちはまた道化となるのだろう。
それでいい。
変わらない世間、終わらない世界が続いても、自分たちは確実に変わった。
或る種の革命を遂げた彼らの雄姿を、本当の意味で知る者は殆どいないだろう。
それでも、誰かは…少なくとも互いは知っている。
ゴミ箱の蓋は開かれた。
ゴミ箱の底で這いつくばった彼らが伸ばした手は、伸ばすことができずに消えていった彼らの手は、何かを掴めたのだろうか。
世間に噛みつき己に食いつき、果ての彼らにまだ何か待ち受けるのだろうか。
己の才能と向き合い邁進する者もいるだろうか。
己の才能を見限り新たな道を歩む者もいるだろうか。
あの世があるならば安らかな眠りについただろうか。
輪廻があるならば次の命として産まれ落ちるだろうか。
それはまた、彼らのお話。
ゴミバコロンパー嘲笑う道化と出演者達ー 終了