
*番組録画はPC版でご覧ください
閑話休題―納涼!肝試し― 千夜よだか&御灯舞編

千夜よだか
おぉん……まじでやるんですか……おん……おん……………………(隅っこぐらし)
語りはすれど語られはせず、ましてや怪談など専門外のものは猶の事。
千夜よだかは暗い顔のまま、うめき声をあげて恨めしそうに校舎をにらんだ。
ならば参加しなければいいのだが、それはそれで暇を持て余すのも事実。
なにより、肝試し中は皆こっちに来ているせいで、寮の方が静かなくらいだったのだ。

千夜よだか
およよ……なんか皆やってるみたいだからやる、みたいな……?
みたいな……?ノリ……!!
誰に聞かれるでもないその呟きは、夏の終わりに蒸し暑くうだる夜の校舎に消えていく。
深呼吸を一度して、そろそろと足を踏み入れはじめた。
美 術 室
絵の具やニスの香りが混ざり、普通の教室とは違う空気が扉を開けた瞬間廊下に流れていく。
壁際に飾られた彫刻や絵がこちらを見ているような気がしてライトを向けても、無言のまま佇むだけだ。

千夜よだか
おぉ……(身構え)なんだ!何にもないじゃないですか…!
全然怖くないし!なんなら鑑賞会してやりますよ!
謎の大声を独りであげながら、千夜はライトを壁や棚に向けて照らしていく。
数々の作品が誰に見られるでもなく飾られ、暗闇の懐中電灯がスポットライトのようだった。
彫刻や絵の他にも、針金で作られた意味の分からない物体、本物と見まごうばかりの造花、奇抜な服をきたマネキン…
あらゆるアートの形がそこに佇んでいる。

千夜よだか
うーん…!芸術……!本当になんにもないみたいですね。
このままなんにも見つかりませんように……
祈りに似た言葉を口にしながら、美術室を後にする。
防音設備が行き届いた2階は不気味なほどに静かで、そろそろと奥へと進んでいった。
そんな彼の後姿を眺めている影が1つ。

御灯舞
…?何やってんだろ、あいつ…。
生まれたての小鹿よりも弱弱しい足取りの千夜を見て、御灯舞が呆れていたことを彼は知らない。
気づかぬままに進んでいく彼の背を負い、射的場に向かう足音が二つ重なる。
射 的 場
遥か遠くに構える人の形の的は、本当に的なのだろうか?
人の形をしたあれは、ただの薄っぺらい板である保証を、誰がしてくれる?
……背筋に寒気がする。
向こう側に、誰かがいる。

千夜よだか
……えっ本当にごめんなさい。何にもしないので見逃してください。本当にすみませんでした。……チラッチラッ……
得体のしれぬ恐怖に遭遇したとき、反射的に謝罪をしてしまうのは人の性なのか。
誰に向けるでもない謝罪をしながらも、気になる好奇心は抑えられぬもの。
よせばいいのに、奥を照らし目を凝らした。
くす くす くす
笑い声、それはあなたの知るあのひとの笑い声。
もう会えない、記憶から徐々に薄れ行くあのひとの、懐かしくも胸が苦しくなる影が、貴方を手招きしている。
『てまねきさん』

千夜よだか
イィーン!!!!!!!イヤーッッッッッ!!!
マジで嫌っマジで嫌っ!!!!!!!!!!!
成仏して!!!!!!

御灯舞
うっっっわ!!何!?突然奇声あげんな!!!!!!
千夜の後ろをついて歩いていた御灯は、驚き咄嗟に後ずさる。
そんな彼女に気づく余裕はないまま、千夜は大きく腕をふっておぼろげな影を追い払おうとしていた。
てまねきさんは変わらず笑い続ける。
その姿にいくら触れても、まるで幻影のように手をすり抜けた。
ガツンッ
…?暗闇のなかで何かに手をぶつけた。

千夜よだか
い、いやぁ……まだ死にたくないぃ~!!
ってうわ!!!御灯さん……?
イィーン…………助けてください……お化けが……おば…
…お化けって実態がありましたっけ…………?
ようやく御灯に気づいた千夜は手をさすりながら、違和感を感じた方向でライトを向ける。
暗闇を裂いてそこにいたのは、映写機をもって走り回るモノホネの姿だった。

モノホネ
あ。

御灯舞
……あのね、こういうのは全部“ヤラセ”なの。ね?モノホネ。

千夜よだか
な、なん……な!!!!!
こ、この!!!許さん!!!!!!正義チョップ!!!!

モノホネ
冷たい目線とチョップのダブルコンボ!
痛い!心と体が同時に痛い!怖がらせようと気合いいれたのに!
映写機を捨て、ぴぇーと泣きながらモノホネはどこかへ走っていった……
残された映写機を拾い上げ、つまらないと吐き捨てる御灯の冷めた目線と反対に、
憤慨した千夜は真っ赤になって汗をかいていた。

御灯舞
……あ、印。これで1個クリアじゃない?お疲れ。

千夜よだか
あのホネ…!(息を荒らげ)
あっありがとうございます!ちょっとびっくりしましたが
全然、全然へっちゃらでしたね!!
色々と見なかったことにしてくださいね!!
映写機を手渡された千夜は、笑いながら逃げるようにその場を去っていく。
その背中を見送りながら、あくびを一つして寮へ帰っていくのであった。