
*番組録画はPC版でご覧ください
閑話休題―納涼!肝試し― 夜亡墓場&神蔵亜楽汰編

夜亡墓場
『肝試しねぇ……一人出歩くのも暇ねぇ、暗いし暑いし』
一人寮にいるのも暇だからと興味のない肝試しに足を運んだ夜亡墓場の足は進まないでいた。
少し前であれば、つまらないと言いながらも妹と一緒に歩いていたのだろう。
思えば、こういった行事に一人で参加したことはない。いつも頼んでいなくても、妹がついていたから。
もういない者に想いを馳せてもしかたがないと頭をふり、帰ろうかと悩み始める。

神蔵亜楽汰
なんや、自分も暇なんか。
ちょうどええわ、一緒に回らん?

夜亡墓場
『あら、全身黒くて暗闇で会いたくないクラスメイト筆頭さんじゃない。いいわよぉ、花をつれ歩けるなんてラッキーねぇ』

神蔵亜楽汰
はいはい、ラッキーやな どこ行く?

夜亡墓場
『どこでもいいけどぉ、トイレみたいにくさーいところは嫌だわぁ』

神蔵亜楽汰
なら2階の射的場にでもいかん?

夜亡墓場
『それ、あなたが行きたいだけでしょ……昼間あれだけ撃っといて、まだいきたいのぉ?男の子ってわかんなぁい』

神蔵亜楽汰
ええやんどうせ他行ってもつまらんし。

夜亡墓場
『ま、どこも暗くて変わんないけどぉ』

神蔵亜楽汰
なら決まりな。
駄弁りつつも足を進め、2階の奥を目的に構え二人は肝試しを開始した。
二人分のライトが時々離れたり交わりながら、夜の校舎は彼らを出迎えた。
射 的 場
遥か遠くに構える人の形の的は、本当に的なのだろうか?
人の形をしたあれは、ただの薄っぺらい板である保証を、誰がしてくれる?
銃器の黒く鈍い反射光に一瞬どきりとするが、特にその影に違和感はない。
物騒なものではあるが、飾られているのを見るとコレクションしたがる人の気持ちが少しわかるような気がした。

神蔵亜楽汰
特になんもないやんけ…

夜亡墓場
『なんにもないわねぇ…私は基本ついてくからぁ、
あなたがエスコートしてよねぇ』

神蔵亜楽汰
しゃーないなぁ…ほらお手をどうぞ(手を差し出す)

夜亡墓場
『うふふーありがと、さすが紳士ね。きゃー暗くてこわーい♡』

神蔵亜楽汰
はいはい暑いからくっつくなや…。
神蔵の腕に自分の腕を絡めた夜亡は、わざとらしい声をあげる。
ただ暗いだけで何もない肝試しに飽きながら、射的場を後にし廊下に顔を出す。
…嫌な予感がする。
ふと、誰かの声が耳に届く。 それは貴方のよく知る声、懐かしく心にじくりと染みる、あの声だ。
うぐいすの耳に届いた声の方を向けば、貴方のよく知るその人が、手招きをして向こう側へ歩いていく。
ふらりとその影に引き寄せられるように歩いていき、手を伸ばせど届かない。
いってしまう、逝ってしまう、貴方の大事な人が手を招いているのに。
『…なに、誰?』

夜亡墓場

夜亡墓場
…秘?

神蔵亜楽汰
は?何言うとんのや自分。
ひんやりと冷える廊下。月明かりが差し込む窓の1つの鍵がかちりと開く。
その人は開け放たれた窓際まで生き、にこりと微笑んで窓の向こう側へ歩いていく。
宙に浮きながらも貴方を手招いて、優しく微笑んでいた。

夜亡墓場
『まって!!ひめ、おねがいまって!!』

神蔵亜楽汰
ちょ、待たんかいや!
虚ろな影を追いかける夜亡の背中を、遅れて神蔵が追いかけてを伸ばすが寸でのところで届かない。
2階廊下に響く足音、走る二人に対し響く足音は3つ。
射的場がある都合で防音機能がしっかり備わっているというのに、嫌に耳に響く靴の音が途切れない。
『てまねきさん』
その人の影は窓の向こうの宙を浮かぶ。
そこに廊下が続いているように歩いていく。
反射的に手を伸ばした夜亡の体がぐらりと崩れる、だって支える壁も何もないのだから。
窓の手すりから体が乗り出しバランスが崩れ、足が浮く感覚が浮遊感を生んだ。

夜亡墓場
っ…!

神蔵亜楽汰
っ、このアホ…!

完全に宙へ躍り出るより先に、腕は彼女の体をしかととらえ、そのまま廊下側でひっぱりこんだ。
てまねきさんはくすくすと宙で微笑んでいる。
脱力し、廊下にぺたりと座り込んだ夜亡は力なく神蔵を見上げる。

夜亡墓場
『……っ、あ……らた…でも、秘が……秘が、呼んで……』

神蔵亜楽汰
呼んでない、アレは違う。

夜亡墓場
『だって、秘、が…………』

神蔵亜楽汰
七不思議の手招きするやつやろ。

夜亡墓場
『…なな、ふしぎ……?……秘……じゃ、ないの……?』

神蔵亜楽汰
芦名ちゃうから落ち着け。
息を整え深呼吸をし、神蔵の手を掴み立ち上がる。
額に浮かんだ汗は引かず、窓を見るといつの間にかあの影は消えていた。

夜亡墓場
『……………大、丈夫……。……いこ、亜楽汰』

神蔵亜楽汰
ん…今日は探索やめとき。

夜亡墓場
『…………うん。……帰るなら、一緒がいい』

神蔵亜楽汰
誰かさんのせいでどっと疲れたから帰んで、ほら。

夜亡墓場
『…………ん。……だっこ』

神蔵亜楽汰
はー…はいはい。
夜亡を横抱きし、そのまま階段を降り出口へと向かう。
結局肝試しは楽しむどころではなく、疲労感だけを残し体がどっと重たく感じる。
そのまま寮へ戻り、二人して校舎へ戻らなかったのは言うまでもない。