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閑話休題―納涼!肝試し― 万針集編

万針集
なんか廊下の向こうから聞こえるような…
ま、だれかその辺調べてるんだろうな。
万針集はエントランスホールから西側への廊下へ足を運んでいた。
懐中電灯の光を揺らしていると、校舎奥側の廊下から誰かの声が響くのが耳に届く。
聞き覚えのある声…おそらく夏露島あたりの声であろうと検討を付けながら、保健室の扉を開いた。
保 健 室

万針集
わぁ、夜だと雰囲気あるなあ…シーツの幽霊…とかは安直すぎかな?
あとは棚…あんまり近づきたくはないんだけどなあ…。
薬品の香りが漂い、清潔感溢れるはずの白いベッドのシーツが闇夜に不気味に映えている。
毒の瓶が並んだ例の棚の施錠がライトを反射してきらりと輝いた。
つい先日の捜査で調べたばかりの棚の鍵は、頑丈なものに変わっている。
低予算と言われたのがよほど答えたのだろうか。棚の中のガラス瓶は何も答えてくれない。

万針集
鍵、変えたんだ…最初からこうしてればいいのになあ。

万針集
保健室は目ぼしいものなさそうかな 音の方、気になるけど…
先にお隣の教室見てみようかな、何かいないかなあ。
1-2

万針集
こっちはこっちで雰囲気それっぽい… 何かあるかなあ?
真っ暗な中に整然と並ぶ机の規則性に、一種の不気味なものを感じる。
そこに誰もいないのに、今にも誰かを待っているような椅子は何も語らない。
教室の隅々までライトで照らすが、塵が舞ってきらきらと反射するだけで、鍵もアイテムも何も落ちてはいない。
窓辺の花瓶に飾られた花が一瞬揺れた気もしたが、ただ影がそう見せただけだった。

万針集
1-2も特に無さそうだったしなあ…
あとは…家庭科室見てみたいな。
家 庭 科 室

万針集
ふぅん、よくある特別教室って感じだけど…
流し台に食器棚が目に入り、続いて本棚に入った家庭科の授業で使う参考書が照らされる。
日常を色濃く示した教室であるにも関わらず、どこか浮いている気がする。
食器棚に並ぶ食器は生徒の数にいくつか予備を加え、そこそこの数が揃っている。
1つ1つ丁寧に見ていくが、特別変わったものは見当たらない。
冷蔵庫の中に謎の肉が入っていることもなく、棚にもごく一般的な塩や砂糖といった調味料が並んでいる。

万針集
ここも七不思議的なのは無いかあ 俺霊感みたいの無いのかなあ…。
家庭科準備室は何かあるかな?
裁縫道具や予備の調理道具が並んだ狭い部屋は、物が多い分影も多い。
何かを取ろうと手を伸ばしたとき、その陰から何かがこちらを引きずるのではないか、そんな錯覚を一瞬覚える。
新品の食器はぴかぴかと輝き、使う主人をいつの日かと待ちわびているように棚に眠っている。
動き出すでもない、ただの物が並ぶ棚を一通り見渡したが、何も見つからない。

万針集
狭いからかな、余計に暗く感じるかも
む…なんもない… 皆はもう何か見つけてるのかな…羨ましい…。
探せど実りのない探索にため息をつきながら、準備室から家庭科室に引き返す。
先ほどと変わらない光景だが、一か所明かりがともっているのを見つけた。
よく見ると、御先丹道蔵が冷蔵庫を覗いているようだ。

御先丹道蔵
まさか調味料が食べたい……なんて事はありませんよね。
うーん……どこにあるのでしょうか……。

万針集
(御先丹君だ、なんか見つけたかな…)
御先丹道蔵は万針に気づかず、準備室をしばし覗いた後に2-1の教室へ入っていった。
手にはなにやら箱を持っているようだが、暗くて何を持っているかはよく見えない。
万針は興味本位で過ぎ去った背中に着いていくことにした。
2-1

万針集
この匂い…焼き菓子…?
… どうやら御先丹はモノホネにクッキーを渡しているようだ。
スプーンを渡され、七不思議の印の1つが発見されたアナウンスが流れる。
スプーンを片手に顔を上げた御先丹が、万針に気づき会釈をした。

御先丹道蔵
おや、これは万針様。どうかなさいましたか?
(スプーンを手にしている)

万針集
あ、えっと、見かけたから気になって…
七不思議、どう?幽霊とかいた?

御先丹道蔵
幽霊は居なかったのですがモノホネは居ましたよ。クッキーが食べたいと言っていたので持ってきたのですが……
これでは肝試しというよりお使いですよね。

万針集
そっか、結局はモノホネかあ…何か見れるの楽しみだったんだけどな。
ねえ、もし良かったら一緒に回らない?俺見つけるの下手みたいで…

御先丹道蔵
ええ、勿論!1人で調べるのも中々大変でしたから……
万針様はまだ見ていない場所などおありですか?

万針集
うーん、そうだなあ…気になるのは射的場とか、美術室かな?
御先丹君はどう?

御先丹道蔵
私も同じく、ですね。どちらもまだ行っていませんので……
ではとりあえず射的場に行ってみましょうか。

万針集
はーい、そうしよっか。
射的場なんて見たことないからなあ、どんな所だろ。
御先丹道蔵と万針集は射的場へ向かったが、結局手がかりを何も得ることはできなかった。
そのまま美術室に足を運んでも同じことで、二人は顔を見合わせてはてと首をかしげた。
やはり闇雲に探すべきではないか…そう結論をつけた二人は、いまだ見つからぬ七不思議「開かずの間」に
焦点をあて、再度学校の地図に目を落とす。

万針集
モノホネは「どくろのひだりほほ」って言ってたっけ…
開かずの間ってくらいだし、なんかあるなら扉とかかなあ…。
御先丹君何かあった?

御先丹道蔵
いえ、何もなさそうでした……何かそれらしき作品があるのかとも思いましたが、アテが外れましたね…… どくろ、何処かで見た気がしなくもないんですが……。

万針集
…俺地図見てて思ったんだけど、一階の形ドクロっぽいなあって。
ドクロの左頬にあたる部屋って職員室になるのかなあ?

御先丹道蔵
ああ……なるほど! そういう事でしたら早速行ってみましょう。
違っていたとしても無駄足にはならない筈ですよ。
職 員 室

万針集
あれ、砂さんがいる… こんばんは、なにか見つかった?

砂六々子
あ!この扉なんすけど、ぜんぜん開かないんす!
これ空かずの間かもしれないっす!
『開かずの間』

万針集
こんな所に扉があったんだ…俺も開くか試してみたい。

モノホネ
皆様、よくぞ開かずの間を見つけられましたね。
…しかしどうやっても扉はびくともしない。ふと、背後から声がした。
足元から聞こえた声に反射的にライトを向ければ、モノホネがちょこんと立っていた。
デスクの上のおやつをを片手に、暗闇の中流暢に続ける。

モノホネ
そこから先はとーっても大事な生徒様の資料を預かっている場所。
なので誰もが立ち入り禁止となっております。
ささ、怪談の1つを見つけたら満足でしょう?
この印を持ってお帰りください。
モノホネは手にもっていた饅頭の1つを渡してくると、再度闇夜に紛れてどこかへ行ってしまった。
よく見れば、饅頭には開かずの間と焼き印がされている。

万針集
…確かに開かずの間だけど、七不思議っていうかただの鍵付き倉庫… とりあえず砂さんのお手柄、かな?

御先丹道蔵
ですね。流石砂様でございます。
……印が饅頭なのは流石に予想外でしたけど。
『開かずの間』の印を手に入れた!

御先丹道蔵
さて……残るは花子さんだけ、との事ですが
お二人は何か心当たりはありますか?

万針集
花子さんと言えば、トイレの花子さんってイメージだけど…心当たりは特に無いかなあ…

砂六々子
こういうときはヒント探しっすね! モノホネが女子トイレ~って言ってたから確かにそうだとは思うっす!とりあえず一階のほうに行ってみるっす?

御先丹道蔵
ですね。我々は女子トイレには入れませんけれど……付いていくだけ付いて行きますよ。

万針集
流石に入るのは色々まずいもんね…砂さんお願いしまぁす。

砂六々子
やばそうだったらギャー!って言うんで!
女子のためだけの場所。冷えたタイルに芳香剤の匂いが染みわたっている。
個室の中には誰もおらず、清潔感のある空間が整えられている。
よく見ると扉のうちの1つだけやけに塗装が剥げている…。

砂六々子
こういうのはよくあるパターンで…えーと3番目の扉を3回ノックと。
はーなこさん、あそびましょ~っす!
「はぁい」
確かに誰もいなかったはずの個室から、幼い少女の声が聞こえた。
ぎぃ…っと扉が開かれ、闇夜の中でも目立つ真っ赤な着物と白い肌の少女らしきものが姿を見せた。
らしきものというのは、それが着物をきた骸骨であったため、性別の判断がつかなかったからだ。
子供サイズの丸い輪郭の骸骨花子さんが、からからと骨を揺らして笑っている。
「あそんでくれるの?」
『花子さん』

砂六々子
ぎょえ!!!出たっす!!!花子さん!!!!

御先丹道蔵
ハッ……砂様、大丈夫ですか?花子さんは何と?

砂六々子
枯れないお花がほしいらしいっすー!!

万針集
枯れない……花?造花の事かな?
……確か……美術室にあったよね。取ってくるよ。

砂六々子
お願いっすー!
御先丹と万針が美術室に向かうと、本物と見まごうばかりの美しい、しかし命のない花がそこに展示されている。
造花を手に女子トイレに戻り、砂に手渡した。

御先丹道蔵
造花はありましたが……これで問題ないでしょうか?

砂六々子
わー!きれいっすね! じゃあこれを…(トコトコ)
花子さーん!お花っすよ!
造花を手渡された花子さんは、肩を揺らしころころと笑い声をあげた。
「まぁこれよこれ!うふふ、私に似合う枯れないお花、ありがとう。これはお礼」
花子さんは赤いお手玉を手に握らせ、にこりと骨の顔で微笑んだ。
手を振りながら、ふっと闇夜に消え…ることはなく、からんころんと下駄の音を立ててトイレから出て行った。
出ていく際「はー幽霊役も大変だわ」とぼやきが一瞬聞こえた気がした…。
